明治神宮の造営をひとつのプロジェクトとして見たとき、大正時代から昭和の初めにかけてこのプロジェクトに関わった人々の多様さと、未来へ残る「伝統」を創ろうという情熱の強さには、圧倒される。
民間の発意で資金を集め、国や東京市を巻き込んでこの事業をプロデュースした渋沢栄一をはじめとする当時の企業家や、神宮づくりをある種の社会運動のように盛り上げた青年団の働きは、当時の日本の民間の活力を感じさせる。
また、森林づくりや都市計画に関わった専門家達は、それぞれが海外で得てきた知見を存分に生かしながら、ただそのコピーを作るのではなく、日本で、東京のこの敷地で、明治神宮という「伝統」を創るためにはいかにあるべきなのかということを徹底的に考え、安易な結論に飛びつくことなく計画を練り上げている。
神社の鎮守の森と言えば針葉樹林という連想ではなく、「森厳な神社林」はその地に根付くべき樹種で構成されていなければならず、そうすることで長きにわたり保たれるという哲学に基づき、300年にわたる森の遷移の設計図を描いた本多静六ら、日本の造林学の草分け達のこの計画に対する真摯な向き合い方には、心を打たれた。
また、明治神宮外苑の計画が、さまざまな主体の錯綜する計画経緯や、震災復興という社会状況の変化を受けて、明治天皇の「記念」の場から、「表参道から神宮外苑」という東京におけるモニュメンタルな複合市街地の形成へとつながっていった過程は、都市をつくることの奥深さと複雑さをまざまざと感じさせてくれる。その中でも、「自由空地」や「ゾーニング」といった概念を海外で学び、その実現のために巧みに動いた折下吉延などのプランナーがいたことが、この複雑なプロセスが最終的に今に残る都市資産を生み出すことができた要因だったのではないかと感じる。
過去にこれほどの広がりを持ったプロジェクトがあったということを教えてくれた、素晴らしい本だと思う。
- 感想投稿日 : 2014年8月10日
- 読了日 : 2013年11月12日
- 本棚登録日 : 2013年10月24日
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