冷血 (新潮文庫)

  • 新潮社 (2006年6月28日発売)
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本棚登録 : 3075
感想 : 268
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古本市場で100円で購入。お値段以上の買い物で、おもしろかった。
ただかなり古い版だったので日本語も古かったのが少し気になった。あと、石原慎太郎が絶賛している紹介文にはなんだか笑ってしまった。あんまりほめるイメージないからかな。

カンザス州の田舎町で裕福なクラターさん一家4人が惨殺された事件がおこった。犯人は刑務所あがりのペリーとディックで、逮捕され死刑判決を受ける。この実際に起こった事件をカポーティさんが丁寧に取材。犯行、逃亡生活、死刑実行までの大小さまざまな事実を小説的な手法で構成し直して「ノンフィクション・ノベル」と言うものに仕上げた作品。

ペリーには少し変わったところがあって、時に乱暴になったり、おねしょをしたり、迷信深かったりする。人付き合いとかはあんまり得意じゃなくて、過剰に信用したり、逆に恨んだりする。今までの不当に痛めつけられてきた(と本人は思っている。確かに過酷だったと思う。)人生に不満を抱いている。
ディックは社交的に振る舞えるけど、自分勝手で度胸はない。いわゆる小悪党のイメージに近かったと思う。小狡い感じ。

この事件についてはいろいろと考えさせられるところがあった。
この犯行の動機付けの部分は嘘ばかりだった。クラターさんの家に大金の入った金庫があるという嘘もしくは勘違い、ペリーが黒人を残虐に殺したことがあるという嘘。
どちらも信じたディックはクラターさんの家を襲う計画を立て、ペリーを共犯者に選ぶ。
そうして感情をうまく制御できなくて暴力的になる傾向のある人物がクラターさんの家に運び込まれることになった。猟銃とナイフと失望付きで。

この話をやりきれなく感じる理由の一つは、もしなにかがすこしだけ違っていたら、ペリーはもっと違う人生を選んぶことが出来たんじゃないかという疑問がどうしたって浮かぶからだと思う。
ペリーは多分、暴力的なろくでなしと言われても仕方のない人物ではあったと思う。(同情できる部分はあるにしても)
でもそれにしたって殺人者ではなくて、近所から煙たがられているこわいおじさんぐらいになることは十分可能だった様に感じるし、もしかしたら何人かは尊敬したり積極的に評価してくれる人も出来たかもしれない。そして事実、そのチャンスもちゃんと訪れていた。
冷血な事件を冷血なまなざしでっていうのがこのタイトルの意味だと思う。事実だけが淡々と、カポーティさんの主観的な評価抜きで書かれた作品だったと思う。けど、 カポーティさんはあきらかにそこに何かを感じていたと思う。
ペリーはカポーティさんに「アディオス・アミーゴ」と言い残して首つり台に向かったらしい。

起こらなかった未来、特にそうあるべきだったのにおこらなかった未来が重要なのだってニュークリアエイジの扉でティムオブライエンさんが言っていたのがこの本を読みながら頭に浮かんだ。

印象に残っている場面は以下。
ペリーがもしかしたらディックにだまされているんじゃないかと初めて考える場面。
ディックの家族を思いやり自供を変更するペリー。
小さな優しさが垣間見える残虐な殺人現場。それを発見して戸惑う刑事デューイ。
クラターさん一家のお墓に燃え上がるように日が当たっているラストシーン。将来について語るスーザン。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2011年2月24日
読了日 : 2011年2月24日
本棚登録日 : 2011年2月24日

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