近代日本初の国語辞書『言海』を編んだ大槻文彦について、彼の生きた幕末~明治の激動の時代背景と共に語った一冊。
 仙台藩の洋学の家の子供として時代に翻弄される青少年期を経て(幕末の東北と言えば、それは色々とありました)、明治に入り外へと開かれていく日本に、統一された文法と言葉の定義が必要と説き、やがて国語辞書の編纂にその一生を捧げていく。
 言葉の定まらない、曖昧だった時代に、すべての言葉にかたっぱしから言葉で意味を定義し、さらに実際に必要と思われる言葉を選定して、一冊の辞書を編み上げる作業は、まさに広さ深さの計り知れない言葉の海を漂うような作業だったのでしょう。
文章の随所に挿入される『言海』からの引用が、そうした地道な観察と細やかな吟味の果てに生まれた言葉だと思うと、涙が滲んできます。

こと―ば(名) 〔葉ハ、繁キ意ト云〕(一)人ノ思想ヲ口ニ言出スモノ。人ノ声ノ意味アルモノ。言。言ノ葉。モノイヒ。ハナシ。詞 辞 言語(二)言葉ノ、ヒトツヒトツナルモノ。ヒトコト。「体ノ―」「用ノ―」言 ○―ヲ尽クス。精シク言フ。○―ヲ返ス。答フ。口答スル。○―ニ余ル。言ヒ尽サレズ。

 国語辞典は言葉を学ぶ基礎となるもので、大槻文彦は、新しい時代に必要とされる言葉を選び抜いて『言海』を編んだのだそうです。
 いまはたくさん出版され版を重ねる辞書に、収録されて生きた言葉もあれば、収録されずにいまは忘れ去られた言葉もあるでしょう。
 電子書籍でこの本を読みながら、不明な言葉を指でなぞればすぐに辞書が意味を連れてくるのを繰り返しているうちに、辞書から漏れた言葉に出会って、ふとそんなことを考えました。

 言葉というものは、こんなにも生きているのか。

2017年8月2日

読書状況 読み終わった [2017年8月2日]

 本を読んでいて、物語や登場人物に救われることは多々あったけれど、本に殺されるかもしれないと感じたのは初めてかもしれない。それほど、この本を読んでいて死にたくなりました。

 大学のオーケストラの学生と指揮者の恋、学生同士の友情。エゴにまみれた身勝手な、それでいて断ち切れない依存と妄執が、「恋」と「友情」の二つのパートで、それぞれ主人公とその親友の視点から書かれています。
 順調だったはずの恋と友情が、次第に泥沼化して、「相手は自分のもの」という強い思い込みが相手や周囲への疑いになり、妄想になって我が身を苛む。決して初めて読むような話ではなかったですが、辻村さんの文体で書かれてしまうと、とても他人事には思えない、真に迫った感じがしてしまいました。
 「友情」パートを読んだとき、「わたしは留利絵だ」と思いました。留利絵ほどの執念深さも計算高さも持ってはいませんでしたが、蘭花を思いやるような言葉や態度の裏が、すべて自分自身のためだったということ、そしてそのエゴを認めたくないあまりに、すべてに「親友のため」という言い訳を自分自身にしていたこと、さらに、蘭花以外の存在をさも敵のように思い込んで、がんとして考えを改めなかったことまで、シーン一つひとつがいちいち胸に刺さって苦しかったです。

 美波のように軽やかに人生を歩める人もいれば、留利絵のようにコンプレックスに押しつぶされそうになりながら生きる人もいる。
 かつて留利絵のように生きてきたわたしが、美波の気持ちも少しわかるようになれて良かったなと、いまは思います。
 同時に、留利絵の存在はこの先もわたしのなかから消えることはないだろうとも思います。

2017年2月18日

読書状況 読み終わった [2017年2月18日]
カテゴリ ロマンス:一般

 同じ日本を書いた話なのに、こんなに知らないことばかりなんだなと思いました。
 学校は中学校まで、病院もない、そんな小さな離島の母親たちは、子供と過ごせるのは15歳までという気持ちで子育てをして、母子手帳に書ききれない思いを綴り、やがて島の外へ出て行く子供へ手渡す。
 過疎化の進む離島に田舎暮らしに憧れる人々やクリエイターを呼び込んんだり、産業を興して盛り立てようと取り組む。
 古い風習を守ることの大切さと、弊害。島を出て行く人、残る人、戻ってくる人・・・。等々。
 わたしたちの暮らしとは違う「当たり前」が、おそらくは丁寧な取材をもとに書かれています。子供の視点から見た小さなコミュニティの群像劇に、青春にミステリー要素を織り交ぜたとても辻村さんらしい物語です。
 そして、これも辻村さんらしい、過去作品を読んだ人ならわかる登場人物や何気なく発せられるセリフたち。今回も「うわぁ!」と一気にテンションが上がると同時に、とても感慨深い気持ちになりました。
 それぞれの道を歩き出す主人公四人を、がんばれ!と応援したくなると同時に、この子たちのようにわたしもがんばらなきゃなと、元気を貰いました。

2017年2月12日

 「雲外蒼天」の最終巻。この日を、澪と一緒に信じ続けてきました。
 雇われ料理人としての身分から、自分の才覚で自分の料理を商う商売人の道を進み始めた澪。身近な人々のための料理と、幼なじみを救う大金を賄うための「鼈甲珠」の二足の草鞋で進むなか、事態が急展開します。
 垂れ込める暗雲の越えて、果てに明るい蒼天を望めるか。残りページ数を気にしながら、一気に読んでしまいました。
 真摯に料理に向き合ってきた澪、途方もない夢に挑む彼女のために、いまこそすべてが報われます。結末の鮮やかさ、粋な計らいに、ここまで読んできて本当に良かったと思いました。

 それにしても最後までかっこいいのが清右衛門先生。「大阪が気に入らぬ」と怒る姿が、いつも素直に澪の料理を誉めない清右衛門らしくて笑ってしまいながらも、彼の悔しさに共感して頷いてしまいました。シリーズを通して澪に助言を与えてきた、物語一番の影の立役者。その最後の助言の結末は、ぜひ本の最後の最後の一ページで・・・。

2017年2月10日

 みをつくし料理帖シリーズ佳境の第九巻。
 この巻はなんといっても、ご寮さんの華燭の典。実の母のように常に澪に寄り添っていてくれたご寮さんと離れるまでの日々が丁寧に描かれ、ついにその日を迎えます。壮麗な婚礼料理と、ご寮さんが愛した澪の蓮の実粥。過ごした日々を振り返りながら、母と慕うその人の幸福と健康を心から願う澪にとても心打たれます。
 そして、つる家の料理人として庶民に供する料理を作り続けるか、一柳の料理人として歴史に名を残す料理人になるか、二つの道が澪に示されると同時に、幼なじみを苦界から救い出すための道筋も現れます。
 つる家の新たな助っ人も現れ、「雲外蒼天」のクライマックスへ向け、体制が整いました。結末は果たしてーー。

2017年2月8日

読書状況 読み終わった [2017年2月8日]
カテゴリ 未分類

 「みをつくし料理帖」シリーズ第八巻。前巻の悲哀を色濃く残しながら、それでも皆が少しずつ希望を取り戻し、前へ進んでいきます。
 料理を通して真摯に人を思う澪の心意気はいつものことながら、「人のため」だけではなく、料理人としての自分の才を存分に発揮する一品を追い求める澪に、いままでと違うかっこよさを感じました。
 澪を取り巻くつる家の面々にも変化が訪れ、澪にもついに料理人として次の段階へ向かう道が示されます。

 今回特に印象に残ったのが、ふきの成長。かけがえのない人を失って特に悲しみようの深かったふきが、やがて又次の教えを守り、形見のたすきを締めて澪の傍らに立つ姿を頭に思い描くと涙が出ます。

 それにしても、人物の魅力もさることながら、情景描写が本当に素敵。
 秋の深まりを「初雁を眺め、赤蜻蛉と親しむ」、初雪を「まだ積もる力もない儚い雪」などなど・・・。
 情景が変わるごとに入る描写の一文に惚れ惚れしながら読みました。

2017年2月4日

 清少納言の一人称で綴られる、「枕」ができるまでの物語。
 時々、教科書で習った場面が出てきて興味を引かれます。こういう流れで、あの「枕草子」はできていったのかと。
 終始、清少納言がみずからの主、中宮定子を褒め称えているような小説で、「主に目をかけられている」だとか、「主に褒められた」だとか、あちこちで「ウザい」のですが、敢えてそういう人物の造形になっているのだろうと思います。
 ひたすら主を信奉し、みずからを「中宮様の番人」とまで強く意識するようになる清少納言。中宮様一筋がために、鼻持ちならないところもありつつも、少女のように一途に相手を慕うさまが、可愛らしくも思えました。

 枕草子が書かれた時代のことには明るくなく(学校では習ったはずなのですが……)、解説を読んでから激動の時代で、中宮定子にとっていかに辛い時代であったかを知りました。
 そんな暗い時代のなかでも、美しいところを切り取って日々を書き、その随筆を主に献上し続けた清少納言のすごさを、改めて感じました。

 この小説の真価を知るには、いま一度「枕草子」を読み直す必要がありそうです。

2016年10月11日

 この本に書かれている中学生たちのことを、まるっきり他人のこととして読める人がどれほどいるだろう? あるいは、まるっきり自分のことのように捉える人は? ……そう考えながら、一字一句頭に刻み込むように読みました。
 中二病の、やや頭でっかちで周囲を見下した、自意識過剰な女子中学生の一人称は、頭の固い感じや独特の哲学を含みつつも、表現や言い回しの所々で子供っぽさも出ていて、不安定な中学生の独白そのもののようでした。

 主人公の少女アンは、クラスで突然仲間外れにされたり、かと思えばすぐ元に戻ったり……それを仲良しのクラスメイトと繰り返しながら、そんな彼女、彼らのことを心のなかで少し見下しながらも、言いたいことも素直に言えず頭のなかで考えてばかりいる。
 そんな彼女が、あるきっかけで、クラスのなかでも地味な男子の徳川へ、「過去にない最高の事件という形で、自分を殺してほしい」と頼む。
 十代少年少女の物語ながら、キラキラした部分などほとんどない、鬱々とした話です。
 アンの一人称を通して語られる話は、よく分析されているようで、実は他人のことなどまるで見えていない、独りよがりの狭い世界。誰もが小さな悲劇を胸に抱えながら、毎日学校に通っている。

 クライマックス直前、反発を続けた母親を肯定的に受け止められるようになるところに、心が揺れました。こういう瞬間が、形は違えど誰にでも来るんだな、と。

2015年12月2日

読書状況 読み終わった [2015年12月2日]
カテゴリ 特集:辻村深月

 歴史や神話を学ぶことの面白さは、書に書かれなかったこと、或いは、書によって歪曲されてしまった事実など、「あったかもしれないこと」へ思いを馳せられることだと思います。
 歴史妄想好きな方は是非読んでみてください。涎が出ます。

 今回は、これまでのライトなテイストの短編連作形式から、やや重めの長編形式になっています。紀の国、和歌山を舞台に、記憶喪失の神様の記憶を取り戻すために、歴史を紐解いていきます。
 これまでのライトな雰囲気を期待していたら、ところどころで挿入される神代の描写が重いのなんのって。初めは「この描写に意味はあるのかな?」と疑い半分だったのですが、その神代の記憶が、現代の人物たちと重なったとき、目が覚めるような気分になりました。伏線というか、こういうギミックは本当にずるい。良い意味で。
 神社や神様にまつわる話に人間ドラマがうまいこと絡まって、神と人、二つ並立した主役とその背景にある物語が、御用人である主人公を介して繋がって相互に成長、変化していく構成の妙。
 さらに、主役たちが奔走する外側で、直接関与しないけど間接的に関わったり見守ったりしている神様や人がいたりして、神代現代各方面の思惑が入り乱れ過ぎて、読み応えありました。
 個人的には、アメリカのホームドラマに出てくるカップルみたいな出雲夫妻が今回のMVP。


 最後に。
 一冊の本が、自分の価値観をがらりと変えてしまうことは意外とよくあります。本にはそれだけの力があります。
 作者さんにこの話を書くきっかけを与えてくれた一冊の本に、わたしは感謝したい。勿論、本を世に送り出してくれた作者さんにも……ありがとうございます!

2015年11月19日

 普段、発売間もないハードカバー本を買うことはないのですが、これはもうタイトルの『図書室で暮らしたい』と表紙のイラストに思いっきり共感してしまい、しかも大好きな辻村深月のエッセイときたら手に取らないわけにはいきませんでした。
 友人とのランチの帰り道、パン屋さんでパンを買い、ふらりと立ち寄った昔ながらの小さな書店で平積みされているところを見つけました。

 読んでいて、途中、何度も涙で中断を余儀なくされました。それでも読み始めたら止まらなくて、読み進めては泣き、を繰り返してようやく読了。
 「好きなものが多すぎて、ごめんなさい!」のオビのアオリ文そのまんま、好きなもの、好きなことについて、作品への愛の滲む文章でたくさん語られています。
 さらに、小さな子供を持つ母親の体験談も多数掲載されていて、泣いたのはおもにこちら。「うちの子へ」はもう涙なくしては読めない……!

 全編に共通していると思うのは、他者への感謝の気持ちに溢れていること。子供の頃に貴重な体験をさせてくれた大人の話や、作家生活、育児生活のなかで出会った人たちからの温かい言葉や気遣い……それらをテーマにしつつ、そこに敬意や感謝が込められていて、心がほかほかしました。

 辻村さんの人柄の温かさを知ると同時に、自分の好きなことに正直に、まっすぐになるための勇気を伝えてくれる素敵な一冊です。

2015年11月17日

読書状況 読み終わった [2015年11月17日]
カテゴリ 特集:辻村深月
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 心にエネルギーが欲しいとき、無性に読みたくなる本がありますが、「お茶と探偵」シリーズもそのなかに含まれています。
 美味しそうな描写のお茶とお茶請け(スコーンだったりサンドイッチだったりサラダだったり)、溌剌と生きる登場人物たち、歴史ある街並みに、奇妙な事件……。

 チャールストンの歴史地区でティーショップを営む女性経営者のセオドシア。
 今回の被害者は、そんなセオドシアの元恋人でニュースキャスターのいとこ。敵を作りやすかった性格の彼女の周囲には複数の容疑者が浮かび上がり、真相への道を複雑にします。
 なにかと事件に首を突っ込みたがるセオドシアに、恐る恐る付いていって図らずもサポート役になってしまうデレイン、この女性コンビがとても好きです!

 事件をきっかけにセオドシアの元恋人ジョリーもセオドシアの前に再び現れ、今の恋人パーカーともぎくしゃくしてしまったり……。ジョリーは別件でなにやら不審な行動が目立ち、こちらの真相は次回以降へ持ち越しのよう。
 段々とセオドシアの身近な人が被害者になっていったり、一巻ですっきり終わらないあたりに、コージーから少しだけ本格派の香りがします。
 今までは一冊読み切るとほっと一息つけたのですが、今回は読み切った先から続きが気になってしまう!

2015年11月15日

 冬休み期間に読もうと思っていたのですが、ちょっと時期を逸しました。
 『ワーキング・ホリデー』の続編です。
 ホストの主人公・ヤマトのもとへ、彼の息子を自称する子供が転がり込んできてから半年、季節は夏休みから冬休みへ。
 ヤマトの現在の職場である運送会社の年末年始の様子がよく書かれていて面白かったです。地域のことならなんでもござれの、優しく頼れるプロフェッショナルたち。
 ヤマトと進だけでなく、血は繋がらないけれど彼らを大切に思う周囲の人々ひっくるめて家族、といった感じのほんわり温かなお話でした。こういう温かみがあるから、坂木作品は大好きです。

2015年1月6日

読書状況 読み終わった [2015年1月6日]

 表紙が綺麗でかわいかったので読んでみました。

 平安時代のいつ頃とは定めず、お化け大好きなイケメン貴族と、彼に振り回される若者が、お化けの噂を聞いてはその場所へおもむき、謎解きをしていく、ややコメディタッチの平安コンビ物ホラーミステリー(?)
 描写がすごく上手くて、ぼんやりと「平安時代ってこんな感じだよね」というイメージを持っていればすんなりと読めてしまうのが良い。
 それでいて、短編連作の最後の話には、途中の話で張られた伏線が回収されていくからお見事。
 やっぱりキャラが立っているほうが、話も分かりやすくなる気がします。
 肩肘張らずに読めるエンタメ時代小説。オススメです。

2014年12月19日

 ロンドンにはゴーストのたぐいとミステリーがよく似合う。

 苦手な文体なので最後まで読めるか心配だったのですが、謎が二転三転して真相へ至る展開にドキドキしつつ一気読みしてしまいました。
 無駄な装飾のない文章なので、こういう「早く先を知りたい!」と思うような展開のときにはさっさか読めて良いですね。

 演劇的な配役で、それぞれの思惑が立体的に交錯するように描かれている点はすごく好きです。
 しかし根本的に、シェイクスピアである必要性を感じないし、女性である必要性もぶっちゃけない。
 あと、従僕がちょっとかっこよすぎたのがなぁ。かっこいいのはいいんだけど、そのかっこいい由縁が欲しかったというか……。「僕も一緒に地獄に墜ちます」までに、もっとはっきり成長していく過程を見せてほしかったり。

 わたし的に、いろいろと惜しい作品でした。

2014年12月17日

 穂乃香に加え、新たにレギュラーが加わって賑わってくる御用人仕事。
 のほほんとしていて、でも笑いあり涙ありで、ライトな話なのに考えさせられるものばかり。他者を思いやる心と、その繋がりが生む、前へ進んでいく力。当たり前のようでいて、とても貴重なもの。
 前巻の出雲夫婦がわたしの中でインパクト絶大だったので、今回はそれと比べると穏やかな神様だったかな(デザイナーも突飛だったけど...笑)
 知名度抜群でまだまだ神の力も強い高龗神の下した天罰のシーンと、田道間守が二千年の時を経て役目を遂げるシーンが私的今回のハイライトでした。

 甘い物好きな黄金のメタボは実はけっこう気になっていたりした(笑)
 あと、孝太郎が好きなので出番が少なくて残念。次回に期待します!

2014年12月16日

 前作のラストで衝撃の事態が起こり、夫に捨てられたアレクシアは、みずからの潔白を証明するためにイタリアへ。
 ライオール教授大活躍でとても嬉しい!

2014年12月5日

 男装の王女が王族間のごたごたの中で、国の在り方に悩み成長していく話。
 今回の舞台は、神託を受ける神官が権力を持つファスール王国。

 三部作の三作目ではあるけれど、一番印象が薄く感じた完結作でした。
 淡々と進んでいくのがこの三部作のテイストだし、一作目、二作目はそれでも良い話ではあるのですが、今回は主人公の印象が弱すぎるのもあって、面白味がないように感じられてしまいました。
 ファンタジーって難しい。

2014年12月5日

 征服者の王子と被征服者の王子、二人から愛される笛吹きの少女の三角関係。
 男女の恋愛に軸を置きつつも、甘くないのが良いです。揺れ動く政情のなかで、二人の王子がどのような道を選び取っていくのかを、少女の視点から見ているような感じ。こういうの大好きです。
 前作で気になった視点のブレなども今回はなく、良い雰囲気の文章になっているなと感じました。
 前作の舞台や登場人物のその後がちらりと垣間見えて嬉しかったです。

2014年11月14日

 松本清張賞を受賞した和風ファンタジー作品ということで気になって。
 若宮の后を決めるため集まった四人の高貴な娘たち、彼女らを監督する現在の后や王家の者たち、それぞれ思惑を抱きながらも関係を気づいていく中、不穏な事件が立て続けに起こり、物語は一気にミステリーの色を濃くします。

 春夏秋冬をそれぞれ体現したような四人の姫の書き方がとても好きです。表では着飾って美しく気丈に振る舞っていても、少女らしい弱さ、后にならなければという重圧によって暴かれる本性。そういう強弱の二面性の見せ方が素敵でした。
 物語も、真相と思われたものが二転三転して、誰もがどこかで嘘をついていて、どうなるんだろう、と思いながらわくわくしつつ一気に読みました。
 しかし、それだけに最後は少し物足りなかったというか……前半と後半で違うテイストになってしまって、面白いと思う以前に戸惑ってしまいました。
 最後はミステリーに落ち着けたかったからこういう構成になったのでしょうが、わたしは前半の過程部分のほうが面白かったです。

 筆力という点で言うなら、ミステリー部分よりも、読みやすく世界に入り込みやすい異世界ファンタジーを構築したほうを評価したいのは、わたしがファンタジー脳だからですね、きっと。

2014年11月12日

 上手い小説だなぁ、と思う、短編連作集。
 江戸時代末期から昭和時代まで、それぞれ独立していながら、登場人物がスピンオフしていたり、端々に前の話の余韻を感じる構成。
 最初、江戸時代から始まったときは「あれ、これ時代小説だったの?」と思ってしまいましたが、なるほどスタト地点。

 前半は時代も遠いせいかどこか非現実的でホラーテイストです。後半、だんだん昭和へと時代が下っていくに連れて、話の繋がりから前半の話の裏話やその後の話が出てきたりして、だんだん人間の話になっていく感じ。
 視点を変えながら立体的に話を作っていくのは、この作家さんの持ち味だなと思います。味のある美しい文章もまた然り。

 しかし、どの話も終わりがぷっつりと切れている感じで、あえてそういう終わり方をしているとはいえ、オチまで欲しいなとも思ったり。
 はっと目が覚めるようで、これはこれで好きではあるのですが。

2014年11月10日

 孤独だけど、そんな人たちがどこかで繋がっているような短編の物語たち。
 日常の中で感じる鬱屈に暗くなりつつも、そんな人生も捨てたもんじゃないなと思わせてくれる温かな人情が詰まっています。
 ただ、単純に全部解決してハッピーエンドというよりは、暗い中で一瞬光が差す場面だけを切り取ったような物語なので、捉え方も人それぞれかと思います。
 わたしは話の終わりに「で?」と感じてしまった派でした...^^;

 「車窓家族」と「晩夏光」が印象に残りました。

2014年11月8日

 装丁と帯と、本にまつわるお話に惹かれて……。

 帯の文章から想定していた、ルリユールのお仕事小説ではなかったです。とても幻想的で、不思議な物語。
 夏のジブリ映画を思い浮かべました。空の青さや暑さ、風にそよぐ木のざわめき、そして料理の音や匂いがこちらまで届いてきそう。

 でも、「ルリユール」ってタイトルなんだから、もうちょっとルリユールのお仕事をちゃんと見せてほしかった。

2014年11月4日

 檀蜜さんは頻繁にテレビ出ているときは全然注目していなくて、「なんでこの人売れてるのかなぁ」くらいの感覚だったのですが、あるとき、「檀蜜」という名前の意味をしってから、見る目が180度変わりました。
 そんな彼女のエッセイ。
 ぽつりぽつりと日常の小さな発見を呟くように書いている日、一言、毒のあるメッセージだけを書いている日と。
 センスがすごい。含蓄ありすぎ。
 有名人のエッセイなのに、サクセスストーリーでは全然なくて、むしろ売れていることにさえネガティブ思考。
 この路線で末永く続いてほしいなぁ、檀蜜さん。

2014年11月2日

読書状況 読み終わった [2014年11月2日]
カテゴリ エッセイ

 『プシュケの涙』の三部作以来で読む柴村仁作品。
 柴村さんの作品はとても好きなのですが、この『夜宵』はホラーテイストということで、購入しながらも後回し後回しになってしまいました。

 のっけから確かに怖かったです。でも、それ以上に、文章から伝わってくる「市」の夜の光景が頭の中に鮮明に浮かんできて、すっかり入り込んでしまいました。
 人物も個性的なのですが、それ以上に世界がすごい。
 そして、最後まで読んでまた冒頭に戻らせるような仕掛け。読者をも巻き込んで「市」の「円環」を作り上げている。
 さらに、不思議な章構成の謎が分かり、読み終わってからしばらく呆然としてしまいました。

 舞台となる小島の周りを包む水の暗さと匂いを感じました。この世界は、本当にすごい。

2014年10月31日

ネタバレ

 おとぎ話のような文章。俯瞰的に書かれた文章が淡々と続き、話がとんとん拍子に展開していきます。
 くどい描写が苦手な人にも読みやすいのではないかと。
 少し、女性向けなのかな。

 男勝りな女の子の恋愛とか、国同士の政治的な駆け引きとか、わたしの好みの直球なのですが、わたしはわりとくどい描写が好きな人間なので、若干物足りなかったです。この1冊の内容をあと3倍くらい引き延ばして濃ゆくしてもいいくらい。
 けど、主人公の少女メイリンのさばけた性格が、ドライな文章にマッチしているのかな、とも思います。

 三部作の一作目で、あと二作品もすでに文庫化されているようなので、そちらも読みます。

2014年10月28日

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