キリング・フィールド (角川文庫 赤 445-1)

  • KADOKAWA (1985年7月1日発売)
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感想 : 3
4

「ニューヨーク・タイムズ」の記者シドニー・シャンバーグが雑誌に発表した
手記を元に作られたのが映画「キリング・フィールド」。その映画と元の
手記の内容を繋ぎ合わせて書かれたのが本書だ。

なので、ノベライズともノンフィクションとも小説とも言いずらいんだが、
こういうタイプの作品は何と呼べばいいんだろうな。

部隊は内戦時のカンボジア。アメリカが後押しするロン・ノル政権の打倒
を目指し、クメール・ルージュは首都プノンペンに迫る。現地で取材を続け
ていた「ニューヨーク・タイムズ」のシドニー・シャンバーグは、カンボジア人
の助手ディス・プラン(本書ではディット・プラン)とその家族を国外へ脱出
させようとする。

しかし、シドニーがプノンペンに残って取材をするつもりでいるのを悟った
プランは、妻子をアメリカ軍のヘリに託しシドニーと共にいることを選んだ。
「クメール語を理解しないシドニーをひとりで置いて行けない」…と。

クメール・ルージュの支配が強まる中、最終となる外国人の退去が始まる。
シドニーはぎりぎりまでプランの脱出計画を練るが、二人一緒での脱出は
実現しなかった。

ここからプランの過酷過ぎる生活が始まるのだが、結末を語ってしまえば
ふたりはタイの難民キャンプで再開を果たすのだ。

国家としてのアメリカの尻拭いを、個人としてのアメリカ人が行っているか
と思うことがままある。

例えばヴェトナム戦争時のアメリカのメディアだ。彼らは違法な書類を作って
までも、それまで自分たちに協力してくれた南ヴェトナムの人々を脱出させよ
うとした。

シドニーもむざむざプランを見捨てた訳ではない。パスポートの偽造さえ
うまく行けば、一緒に脱出できるはずだった。

本書では残されたプランに重点が置かれているが、アメリカに帰国後、
一連のカンボジア内戦報道でピュリツァー賞を受賞したシドニーは
「その賞はプランを犠牲にしたことで得られたのだ」と責められることに
なる。

いつ殺されてもおかしくない状況に置かれたプランも辛いが、彼を助けられ
なかったシドニーの背負ったものも重いと思うんだ。自分が取材を続ける
ことをしなければ、プランは妻子と共に脱出できたのだもの。

思いつく限りのところへプランの消息を尋ねる手紙を出し、難民キャンプに
足を運び、奇跡が起こる。

「すまなかった」と謝ることしか出来ないシドニーに、プランは言う。

「いんですよ、そんなこと。あなたはちゃんと来てくれたじゃないか。シドニー、
あなたはちゃんと来てくれたんだ」

お互いが、お互いの命に責任を持って、その責任を全うしたのだろなと
思う。

尚、プランは1980年にアメリカに渡り、「ニューヨーク・タイムズ」に写真家と
して雇用された。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年8月22日
読了日 : 2016年1月20日
本棚登録日 : 2017年8月22日

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