「天皇機関説」事件 (集英社新書)

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  • 集英社 (2017年4月14日発売)
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貴族院議員でもあり、憲法学者であった美濃部達吉らが唱え、
大日本帝国憲法下で30年近くに渡って憲法学の通説とされたのが
天皇機関説である。

国を法人とみなし、統治権は国家にあり、天皇はその最高機関とし
て、内閣等の機関からの輔弼を得ながら統治権を行使する。

しかし、満州事変後の1935年、軍人出身の政治家たちをはじめ、
右翼団体等から総攻撃を受けることになった。

美濃部達吉が矢面に立たされ、その著作までが発禁処分となった
「天皇機関説事件」を分かりやすく説いたのが本書だ。

もうねぇ、攻撃を開始した軍人出身の政治家っておバカちゃんでは
ないかと思うのよ。美濃部博士の著作さえ読まずに「学匪」「謀反人」
などと言って恫喝するんだから。

それは右翼も一緒。政治家たちを先導した蓑田胸喜なんて、美濃部
博士の天皇機関説の一部を切り取って、理論を捻じ曲げて「けしか
らんっ!」なんてやっているのだもの。そもそも蓑田の「いいがかり」は
私怨ではなかったのかと思うんだわ。

美濃部博士は「一身上の弁明」を議会で演説し、騒動は沈静化するかに
見えたのだが、天皇を利用したい軍部や右翼からの攻撃は増すばかり。

右翼団体や在郷軍人会は別動隊の団体を立ち上げて、国体明徴運動
を錦の御旗にして振りかざす。あれ?別動隊って今の「日本会議」の
やり口がそのまんまだね。

大体、明治維新後の日本って「アジアは後進国だからやだ。ヨーロッパ
列強の一員になるんだもんね」と脱亜入欧を目指していたはずだろう。

それなのに、満州国建国で国際連盟脱退。「日本は他に類を見ない
万世一系の天皇が統べる特別な国なんだぁ」と、西洋思想を排撃って
なんだよ。

天皇機関説を唱える美濃部博士をはじめとした学者さんたちを国賊だと
か、不敬だとか言うけれど、当のご本人である昭和天皇は「機関説で
いいではないか」と容認されているっていうのに。

要は自分たちに都合のいいように天皇を利用していたのは右翼団体や
陸軍皇道派なんだよね。だから、2・26事件を起こして昭和天皇を激怒
させたんじゃないのかな。

今の教科書ではこの天皇機関説に触れているのかな。私は学生時代、
事件の内容は教わらなかった気がする。

新書なので一般向けに分かりやすく書かれており、各人のよって立つ
思想についても解説されているので理解しやすい。

そして、日本会議の手法がこの頃の機関説排撃運動に加担した人たち
と似ていることにうすら寒くなった。

尚、美濃部博士攻撃の急先鋒だった蓑田胸喜は戦後の1946年に自死
している。一説には国体のなんたるかが分からなくなった末の狂死とも
言われているようだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年8月24日
読了日 : 2017年5月24日
本棚登録日 : 2017年8月24日

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