オールド・テロリスト

著者 :
  • 文藝春秋 (2015年6月26日発売)
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感想 : 119
4

舞台は東日本大震災から7年後の日本。妻子に逃げられ、仕事に
もあぶれたフリー・ライターのセキグチの元に、以前仕事をしていた
出版社の編集長から連絡が入る。

某国営放送でテロを起こすとの電話があった。電話の主は高齢の
男性。そして、彼はセキグチにルポを書くよう指名して来たと言う。

当日、取材との口実を設けて国政放送のロビーに潜り込んだ
セキグチの目の前で、実際にテロが起こる。しかし、実行犯は
どこにでもいそうな青年だった。

編集部に電話をかけて来た高齢男性の目的はなんなのか?
セキグチは徐々に事件に振り回され、背後にいるであろう
じいさまたちの思惑に絡めとられて行く。

いや~、「村上龍」って感じの作品でした。『希望の国のエクソダス』
も好きな作品なんだが、あれは中学生たちが自分たちだけの「国」
を作る物語。

本書はその対極に位置するのかな。セキグチの一人称で物語は
進むのだが、そのセキグチを振り回すのが社会的にも成功し、、
経済的にも安定したじいさまたちだ。

腐り切った日本を、もう一度焼け野原に戻す!じいさまたちの憤怒が
テロに結び付く。どんな動機でもテロはいけないと思う。でも、じいさま
たちの憤怒には共感できてしまうのだな。

特にじいさまのひとりが語るマスコミについてなんて、読みながら
頷いてしまった。

「年寄りの冷や水とはよく言ったものだ。年寄りは、寒中水泳などすべき
じゃない。別に元気じゃなくてもいいし、がんばることもない。年寄りは、
静かに暮らし、あとはテロをやって歴史を変えればそれでいいんだ」

なんか、分かるんだよね。こういう気持ち。あ、でも私はテロはしません
よ。本書の中のじいさまたちのように、満州からこっそり持ち帰った
ドイツ製の兵器なんて持ってませんから。

500ページ超の大作だが、じいさまたちの動きが気になってさくっと
読めた。

難点なのはセキグチの心理描写と、セキグチをサポートする美女・
カツラギのキャラクターが途中で変わっていることかな。

ラストは続編が出るか?と思えるような終わり方だ。でもね、こんな
じいさまたちが実際にいたとしても不思議じゃないよ、今の日本。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年8月21日
読了日 : 2015年8月10日
本棚登録日 : 2017年8月21日

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