([か]5-1)いのちの代償 (ポプラ文庫 か 5-1)

著者 :
  • ポプラ社 (2009年9月2日発売)
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感想 : 16
3

1962年12月、北海道学芸大学函館分校の山岳部員が行った大雪山
での冬合宿は、悪天候に襲われ北海道山岳史上最悪の遭難事故と
なる。

参加した11名中10名が遺体となって下山した。たったひとり、
生き残ったメンバーが45年の時を経て事故の全貌を語る。

体力の消耗から滑落する者、昏睡状態に陥り動けなくなる者と、
10人の部員は次々と下山出来なくなって行く。

自分だけでも下山して仲間の遭難を伝えなければとの思いで、
凍傷に罹った両足を引き摺るように動かし、リーダーは山を
降りる。

生きていて欲しいとの願いも虚しく、悪天候と深い雪に阻まれ
6か月を費やした捜索の末、10名全員が遺体となって山を降り
ることになった。

唯一の生還者に向けられる報道の集中と遺族の避難は如何ばかり
であったか。両足共に踵を残しての切断手術に耐えたリーダーは、
山の仲間たちの合同葬儀の為に追悼の言葉を録音する。しかし、
その言葉は遺族によって会場で流すことを拒否される。

生き残った者も、肉親を亡くした者も、深い悲しみを懐に抱えた
ことだろう。

だが、気になることもある。初めての冬山合宿で既に体力を消耗し
ていた者がいた。加えて、気象情報で天候の悪化が分かっていた。
それなのに、早目に下山行動に移ることなく予定していたスキー
訓練を行っているのだ。

結果論にはなるが、やはり判断ミスがあったことは否めないのでは
ないだろうか。

たったひとりの生還者の証言を元に、遭難当時の様子を丹念に追って
いるのだが、本書後半部分の社会復帰を果たした後のリーダーの成功
譚は興醒めである。

生還者本人へのインタビューが基調になっているので仕方ないのかも
知れぬが、最愛の息子を失った側の証言がないのは片手落ちか。

良書ではあるのだが、読後感がすっきりしない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年8月16日
読了日 : 2009年12月9日
本棚登録日 : 2017年8月16日

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