疎開した四〇万冊の図書

著者 :
  • 幻戯書房 (2013年8月10日発売)
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感想 : 13
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有川浩の『図書館戦争』シリーズはメディア規制と闘う図書隊を描いた
小説。映画化された時、図書館内での戦闘で本が犠牲になっている
映像を見て「本を粗末にするなっ!」といや~な気持ちになった。

本書は同名のドキュメンタリー映画の書籍化。上記の小説は「図書
館での戦争」だけれど、これは実際にあった「図書館の戦争」である。

先の大戦で日本本土へのアメリカ軍の空襲が激烈になった昭和20年。
図書という文化が戦火の犠牲にならぬよう、大量の本を疎開させた
記録である。

「読み物」というよりは本当に「資料集」という作品である。手に取った
のは「読み物」を期待したからなので、その点では少々肩透かしだ。

だが、これはこれで貴重な記録と言えるだろう。メインとなっているのは
都立日比谷図書館なのだが、日本各地の図書館が所蔵する図書を
いかに戦災から逃れさせるかに苦心した様子が興味深い。

日本の敗戦濃厚な戦争末期。本を梱包する資材さえ不足していた
時代に、文化を守り、保存しようとした人々の証言記録は貴重だ。

若い男性は兵隊に取られ、40代以上の職員や高等中学校の生徒が
梱包した本を大八車に積み、あるいはリュックに詰めて背負い、何
往復もして東京郊外に本を運んだ。

それは図書館所蔵の本ばかりではない。一般市民や研究者から
貴重な図書を買い上げて疎開させている。

この買い上げ図書の協力者として登場するのが古書店・弘文荘
店主であり、日本の古典籍の第一人者でもある反町茂雄。まさか
ここで反町氏の名前を目にするとは思わなかった。

古書店主として一時代を築いたのは勿論、多くの著作を残しており、
そこにこの日比谷図書館の話を綴っていたとは知らなかった。

戦争とは異なるが、東日本大震災の時、避難等が一段落し、衣食
住がある程度の安定を見せた後に望まれたのは読み物だったと
聞く。人間は文化に触れていないと、胃は満たされても心と頭が
満たされないのだろうな。

「文化や貴重な文献を守るということは、図書館員だけがいくら
一生懸命やってみても、また図書館がどんなに力を入れても
結局はだめで、文化財を完全に戦禍から守るためには戦争を
やめること以外にはないのではないでしょうか」

図書疎開に携わった人の言葉である。そして、イラク戦争時に
バスラの図書館員だった人の言葉を。

「私にとって本は子どものようなものです。戦争で焼けている
のは私の子どもたちなのです」

苦労しながら疎開させた図書。だが、それは戦後になってGHQ
がその一部を処分することになる。

このテーマ、誰か「読み物」に仕立ててくれないだろうか。本書は
本書で資料として保存したいのだが、物語にしてくれた方が
読みやすいかもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年8月20日
読了日 : 2014年8月14日
本棚登録日 : 2017年8月20日

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