この本は、医師が6年間の大学生活を終え、国家試験に合格した後に進路をどう選ぶべきか、という内容が中心になっています。
最もいいたいことは、研究するなら臨床には進まず、直ちに研究生活に入りなさい、ということです。
他の学部に比べてすでに出遅れていることや、臨床と研究の二足のわらじは両立できるものではないこと、やる気に溢れているうちにいくべきであること、などを強調されています。
読んでみて思ったことは、医学部に入った人は、臨床の医師になりたくて入った人がほとんどでしょう。
その中で、基礎研究に興味を持ち、実際に研究者になることはかなりハードルが高そうです。
その天秤は初めからかなり傾いており、病院実習と平行して、授業としてではなく基礎実験の最前線で本当はどんなことまでやっているのか、自分たちにできる可能性はどういうものか、何が面白いのか、といったところに取り組まないと、初めから研究がしたくて医学部に来たごく一部の人が興味を持ち、さらにそのごく一部が研究に進むと言った現状は変わらないでしょうね。
ただ、筆者の言っていることは非常に本質をついたことであり、医学部という非常に優秀な頭脳の持ち主の集団のほとんどが、臨床医というルーチンワーカーになるのは、大きな視野から見るとかなりの損失になっていると言えるでしょう。
筆者の主張している内容が、医学生の自主性にまかすのではなく、制度やシステムとした形になったときに理想へと進み出すのでしょうか。
先ほどの紹介文は、生意気な書評になってしまっていたのではないでしょうか。
そこは反省して、実はこの本にはもうひとつの、科学者の仕事術、という側面もあり、とても参考になる文章にあふれていますので、会わせて紹介します。
筆者も述べていますが、研究者のみならず、ビジネスマン・ウーマンにも共感できると思いますし、自分の身に置き換えてもらえればいいのではないでしょうか。
「とにかく実験の”美しさ”と科学的センスは大変よく相関すると思っています。サイエンスはアートなんです。」P155
「手技以前にどのくらいミスやブレを無くすことができるかを徹底的に考えるのが大切で、そこには抜群の想像力が要求されます。(中略)人間には誰でも必ずミスがありますが、100回に1回のミスを1000回に1回に減らす工夫をするのです。」
P161
「まず、実験ノートは論文と同じように書きましょう。1:タイトル、2:日付、3:実験目的、4:材料・方法、5:実際に行った手技、6:結果、7:考察。(中略)。大切だけど意外に難しいのは、1:タイトルと、3:実験目的ですね。(中略)。実際に行った手技は、どんな小さなことでも記録します。」P164
「学会、セミナーでは「良い質問」を投げる。」P170
「あなたが「やる気のある人である」ということを伝えるための、コミュニケーションをすればいいのです。」P186
「研究能力や努力を示す、ということがアピールで、それ以外のことでよく思われようとすることが媚びることです。」P188
「教授になって10年以上経った今でも,昔の上司から「明日までにスライドを準備してほしい」なんて言われることもありますよ。」P192
上司には礼儀正しくプレッシャーをかける
「ボスが論文を見てくれないのは、自分の努力が足りないのです。(中略)。同様に大切なのは「どのくらい自分がこの論文に真剣に取り組んでいるか」をボスにアピールすることなのです。」
「「必ず翌日に」「質の高いものを」持って行くことがボスにとってプレッシャーになるのです。」P196,197
- 感想投稿日 : 2012年10月30日
- 読了日 : 2012年10月10日
- 本棚登録日 : 2012年10月30日
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