中国ナショナリズム - 民族と愛国の近現代史 (中公新書 2437)

著者 :
  • 中央公論新社 (2017年6月20日発売)
4.18
  • (10)
  • (6)
  • (6)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 128
感想 : 17

 ナショナリズム解説というより近現代の通史だったが、清末以降、漢人と非漢人、政府と知識人と大衆、愛国主義と社会主義、と、ナショナリズムと一言に言ってもその中に異なる、時には対立し得る要素も含んでいる複雑さが見て取れた。その要素は、形を変えつつも、現在の中国ナショナリズムを見る上でも参考になるのかもしれない。
 清末の革命派は藩部や故地とは遠い華南出身者が中心だったため、非漢人への意識は希薄だったという。現在の「中華民族」にはもちろん少数民族も含むという整理だが、漢族中心の歴史や文化に基づくナショナリズムを煽っても、果たしてどこまで非漢族が共感を覚えるのだろうか。
 光緒新政期から民国期にかけ、政府・知識人主導の文明的な「上からのナショナリズム」はあれど、大衆には浸透しにくかったとのことである。共産党は後者を上手く動員できたということだろうか。そして現在、共産党政府は大衆の暴力的なナショナリズムを動員しつつも、統制の範囲を超えそうになるとやはり文明的な「上からのナショナリズム」を重視するという点では昔から変わっていないのかもしれない。
 また、本来国際的な社会主義と一国だけの愛国主義は相反するものなのに、共産党は成立初期から祖国防衛→全人民の救済→プロレタリアートと労働人民の解放、という論理で両者は矛盾していないとしていた。更に筆者は、90年代以降、「社会主義イデオロギーに替わる国家統合の論理」として、民族や愛国が一層強調されているとも指摘している。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 中国
感想投稿日 : 2017年7月13日
読了日 : 2017年7月13日
本棚登録日 : 2017年7月13日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする