国防政策・文民統制・安全保障観等の政策面、空母や宇宙開発等の軍事面、そして腐敗という組織論と幅広い内容なので、ややまとまりのない印象は受ける。また2012年の本であり、「国産空母についても完成するまでは沈黙するだろう」「(劉源は)ポスト胡錦涛時代に軍の指導部を担う一人となるのは確実」といった、必ずしもそうはならなかった予測もある。国家主席による軍の掌握度合いや陸軍重視傾向も変化しているだろう。軍の研究機関の内部文書が必ずしも軍の公式見解とも言えない。ただ、そんな各論をあげつらう以前に、本書様々な側面を分かりやすくまたバランスよく示してくれる。
公式の国防費発表が実態を反映していないのは常識だが、財政部に別枠予算があることや、複雑な予算の流れのため軍自体も把握しきれないという内部文書に基づいた指摘はなかなか他では見かけない。
「先制不使用」政策や文民統制が実際にどこまで守られているかは筆者も疑問を提起しつつ、断定はできていない。その不透明さこそ中国軍らしい。また、「攻撃は最大の防御」という意味に変わってきた「積極防御」理論、国益に伴い関与するエリアを広げようという「利益辺疆思想」も紹介している。
そして何より、筆者は、「国家の繁栄を維持するためには必ず軍事力の裏付けがなくてはならないというのが中国の安全保障観の基本だ」と述べている。最近読んだ中国軍事に関する他の書籍にも同趣旨の内容があった。そもそも現代日本とは根本的な土台が異なっているというわけだ。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
中国
- 感想投稿日 : 2017年2月4日
- 読了日 : 2017年2月4日
- 本棚登録日 : 2017年2月4日
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