マインド・タイム 脳と意識の時間

  • 岩波書店 (2005年7月28日発売)
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感想 : 14
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「意識」や「自由意思」についての議論に大きな影響を与えることになった有名なリベットの実験。その実験を実施したベンジャミン・リベットその人による解説書。 本書でも詳しく紹介されているリベットの大きな業績は次の二つだ。

1. 外部からの感覚入力が意識に上るまでには0.5秒の遅延が生じている。
2. 何かをしようと意識(意図)する以前に脳内でそのための活動が既に始まっている。

上の結論が、どのような実験によって導かれたのかは本書に詳しく書かれている。
どちらの知見も我々の通常の意識に対する直観とは相容れないものだが、その後に他の複数のグループによって行われた追試でも同様の結果が得られており、科学的にはほぼコンセンサスが得られているものである。

これらの知見は言わば、無意識が意識に先立つ主であり、意識が無意識の従であるとの主張である。無意識と言えば、フロイドなのだが、フロイドやその後に続く精神分析学における「無意識」は自分に取ってはひどく概念的で、説明のための仮想ツールのような印象をどこかで持っていたのだけれど、本書を読んで無意識の実在性と具体性を認識することができた。

なお1.について補足すると、さらに我々の主観は0.5秒経った後で知覚するにも関わらず、 過去に遡ってリアルタイムで感知したかのように解釈(錯覚)することまでやっている。

また2.の事実は、人間の自由意思の位置付けに対する重大な問題提起となっている。 リベットはこれに対して、行動は無意識のうちに始まるが、それを拒否することはできる、とすることで自由意志と責任についての問題を救おうとしている。この部分は、訳者もわざわざ注釈を入れているように、論理的な正当性が弱く、議論の余地があるところだ。著者の希望が色濃く反映されているようにも思える。例えば前野隆司氏なども『脳はなぜ「心」を作ったのか』で、拒否権などないとしている。

この本で取上げられているリベットの実験と知見自体は多くの書籍等で取り上げられているが、人間の意識活動について知的な興味を持つ人であれば、改めてこの本を読むことを勧める。

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なお著者が一生懸命説明しているCMF(意識を伴う精神の場)理論は、物質である脳組織から意識が生まれる仕組みを説明する野心的な取組みのようなのだが、いまいち理解できなかった。いずれにせよ、この理論については市民権を得ていないようだ。

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翻訳は自身も専門家であり『サブリミナル・インパクト』など意識に関する著作も多数がる下條信輔さん。文体が丁寧なですます調でやや調子が狂うが、下條さんは自著でもですます調なので、そちらの方が作業的にしっくりくるのだろう。やや読みづらいのは翻訳者のせいではないのだろうなと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 科学
感想投稿日 : 2011年1月16日
読了日 : 2011年1月12日
本棚登録日 : 2011年1月16日

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