生命の星の条件を探る

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  • 文藝春秋 (2015年8月26日発売)
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著者は、地球の特徴として、「①地表に水があること。②大陸があること。③プレートテクトニクスがあること。④生命がいること。」の4つを挙げる。地球には空気があり、海があり、適切な気温に保たれているが、本書ではこのような地球に生命が生まれる条件について議論されている。

水や空気や気温や気候が生命の条件に都合よく合うことについては、いわゆる人間原理にも似た議論が出てくる。つまり、「地球とは少し違う環境の惑星があったとして、そこに生物があるとしたら、その生物は惑星の環境によく適応しているでしょう。そして、逆の言い方をすれば、その惑星の環境はその惑星の生物たちにとって「奇跡のように」すばらしいものに見えるのではないでしょうか。こういうわけで、私は地球の条件がいかに微妙に見えても、奇跡の星という言い方で片付けてしまいたくないのです」というのが著者の考えである。そして、この問題を論理的かつ科学的に考えるにあたっては特に強く求められる姿勢となるだろう。

実際に、タイトルにある「生命の星の条件」を確定するのは難しい問題である。著者も次のように述べる。「すでに述べたように、地球の生命は、地球の環境に合わせて進化していて、進化は必ずしも同じ道をたどるとは限らないのです。さらに地球の生命についてですら、全体としてみたとき、惑星がどのような状態でなければならないか、はっきりしないのです」
その上で、著者は水の存在割合やプレートテクトニクスの影響、さらには近日点と遠日点の差などにも言及する。

「この背景にある問題は複数あります。一つの根源的問題は、我々が地球の生命という、一つの生命しか知らないことです。これから「一般的な生命」を推測するしかありません」ー 果たして「一般的な生命」などというものをわれわれは推定することができるのだろうか。まずは、ここに困難が存在していることを否定できない。

宇宙全体において生命が生まれて人類とコミュニケーションできる確率がどの程度あるのかという議論では「ドレイクの方程式」が有名である。ちなみに具体的なドレイク方程式は次の通りである。
= 人類がいる銀河系で1年間に誕生する恒星の数
x その中で恒星が惑星を持つ確率
x 惑星を持つ恒星のそれぞれで、生命を宿しうる惑星の平均数
x それらの惑星が実際に生命を宿す確率
x それらの惑星が実際に知的な生命を宿す確率
x それらの知的生命の文明が、宇宙で検出できる通信信号を放つ技術を得る確率
x その文明が、信号を出し続ける時間
= 銀河系において地球と交信可能な文明の数

1961年の時点で仮に数値を入れて計算をしたところ宇宙全体で「10個」とされていたが、もちろん諸々の説が存在する。

著者は2003年にALSを発症して、この著作を書いているときにはすでに病床にあるということを、同じ分野の准教授でもある妻の阿部彩子さんが書いたあとがきで知った。口述で速記を作らせて、画面上で修正していくという作業を続け、3年間の情熱を注いでできたものがこの本だということである。

「この本を読んでくれた方々が、科学者阿部豊と一緒に、「地球以外にも生命の星はある」という「信念」を「科学」に変える探求を応援して参加してくださるなら、こんなに嬉しいことはありません」

良い意味でその並外れた苦労を感じさせない内容になっているが、襟を正して読ませてもらわねばと思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 科学
感想投稿日 : 2016年1月1日
読了日 : 2015年11月24日
本棚登録日 : 2015年11月25日

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