筒井康隆全集 (2) 48億の妄想 マグロマル

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感想 : 4

先週の日曜は、そういえば、筒井康隆なんぞ読んで時間を潰してしまったのを思い出した。
市立図書館で何気なく手に取り、借りてきて読み始めたら止まらなくなった。
おもしろいんだから仕方ない。

主に短編が収められたこの巻で唯一、中編程度の長さがあるのが「48億の妄想」である。
筒井康隆は「時を駆ける少女」で知られているように、SF作品を多く手掛けており、
この作品も著者自らがあとがきに書いたように「疑似イベントSF」の小説だ。

舞台はおそらく、この作品が書かれた昭和40年ごろの日本。
しかし現実そのままではなく、テレビが憲法をも凌駕するほど栄華を誇り、随所にカメラ・アイが設置され、人々はみなカメラを意識して生活しているパラレルワールドで物語は繰り広げられる。
主人公でテレビディレクター(この世界では誰もがうらやみ憧れる職業)の折口は、テレビの言いなりになることを迫られた末に自殺した外務大臣の娘との出会いから、それまで当然のように思っていたテレビ社会に疑問を感じるようになる……。
その後、テレビ局の陰謀(というか番組の企画)で日韓海戦を勃発させるなど、いろいろ起こるので「疑似イベント」SFなのである。

読めば多分誰もが感じると思うが、この作品はマスメディア(特にテレビ)に対する強烈な風刺を含んでいる。白痴化した視聴者、事実を作り上げてしまう傲慢なテレビ局、テレビに媚を売ることしか考えていない政治家……。

数年前だったら、「これ、現実ほぼそのまま(ちょっとデフォルメされてるだけ)じゃん」と思ったかもしれないが、最近はマスメディアに対する批判の目が、確実に厳しくなってきているから、そう言いきることもないだろう。

特に3.11の震災後は、テレビ・新聞の報道を鵜呑みにする人はごく限定的ではないか。
でもまだ過渡期なためか、この作品に書かれたような滑稽なマスメディアの有様を目の当たりにすることもある。明日投開票の、民主党代表戦とか、ね。

ちなみに、この作品に登場するナルシストでプレイボーイのアナウンサー・長部は、なぜかミ○ネ屋の司会者の方を思い起こさせた。イメージがぴったりだったのだ。
実際のミ○ネさんは、ナルシストでもプレイボーイでも無いかもしれないが、なぜかあなたを想像してしまいました。すみません。(この長部は、後々醜態をさらす……)


この「48億の妄想」の他には、「堕地獄仏法」や「マグロマル」がおもしろかった。
「堕地獄仏法」は、総花学会と一体の恍瞑党(モデルは…わかるよね)が独裁政権を維持している仮想の日本が舞台のお話し。あまりにもあからさまで、こんなに書いて大丈夫だったのかなあ…と思った。


結論。
筒井康隆は、おもしろい。
というか、性に合うんだと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文学(日本)
感想投稿日 : 2012年8月12日
読了日 : 2011年8月28日
本棚登録日 : 2012年8月12日

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