『ブレーメンII』の最初の数ページで私は思った。
これは人間と動物が力を合わせてマイペースに宇宙を進む物語なんだろう、と。イヌがわんわん、ネコがにゃーにゃー、カエルがぴょんぴょん、サルがきーきー、にぎやかに和やかに気楽に、待ち構える困難に立ち向かっていくのだろう、と。ところがどうして、なかなか血なまぐさくてシリアスで泣ける話じゃないですか。
この物語は短編『アンドロイドはミスティブルーの夢を見るか』の設定をそのまま引き継いでいる。イレブン・ナインとの異名を持つ99.999999999%の正確さを誇る宇宙飛行士、キラ・ナルセが主人公。キラは大型輸送船ブレーメンIIの船長に就任した。ところがブレーメンIIのクルーの中で人間はキラ一人。残りはブレーメン(働く動物)と呼ばれる、バイオテクノロジーによって知性を与えられた動物達であった。
川原泉にしては珍しく、人が大量に死ぬ。ホラーな化け物に惨殺される。
川原泉の作品は決してお気楽一辺倒ではない。以前の作品でも人は死んだ。でもそこに負の感情は見えなかった。なのにこの作品では一巻でいきなり335人が血の海の中に倒れる。その犯人が楳図かずおばりの化け物なんだが、交互にコマに現れるメルヘンな白ヤギさんとのコントラストがなんともいえない。
基本的には宇宙もののSFだが、デフォルメされた動物達の所為で非常にメルヘンな感じが漂っている。そしてのん気にほのぼのやっていると思えば、不意に切なくなったりホロリときたりする。ちぐはぐなんだけどそれがこの作者のカラーだ、といわれて納得できてしまうのが川原泉のすごいところだと思う。
一番心を打たれたのはライカ犬のくだり。世界で最初に宇宙を飛んだ生き物が犬だってことは知っていた。でもこんなに悲しいエピソードだったとは。キラ船長の語り口があまりにも静かで胸が締め付けられるようだった。
- 感想投稿日 : 2007年3月31日
- 読了日 : 2007年3月31日
- 本棚登録日 : 2007年3月31日
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