となりのトトロ [DVD]

監督 : 宮崎駿 
  • ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント
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本棚登録 : 4649
感想 : 540
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夏休みに子供と観たいアニメといえばこれ。
宮崎駿の不朽の名作『となりのトトロ』(1988年)、スタジオジブリ名義の作品としては『天空の城ラピュタ』に続く2作目の作品です。とある田舎の村を舞台に、都会から引っ越してきた姉妹・サツキとメイが遭遇した、ある夏のふしぎな出来事をえがいた物語です。時代は高度経済成長期前夜(昭和30年前後)、場所は東京近郊の農村(埼玉県所沢という説も)といったところでしょうか。もっとも、普遍的なおとぎ話として物語を楽しむためには、舞台を特定しないほうがいいのかもしれません。

宮崎アニメの中でも『トトロ』は特に対象年齢が低く設定されている作品です。『風の谷のナウシカ』に見られるような痛烈な文明批判は『トトロ』では控えられており、かわって、日本古来の自然信仰、神道的世界観に基づく素朴なアニミズムが、物語の基調となっています。仄暗い静かな森、苔むした木の根、しじみ蝶にカタツムリ、お地蔵さまにお稲荷さん、季節とともに変化する田園風景…。いつかどこかで見たような、日本人のDNAに刻まれていそうな美しい風景が、私達の目を楽しませてくれます。宮崎アニメの中で、私は『トトロ』が一番凄い作品だと思います。悪者を作らず、戦闘シーンもなく、登場人物を殺したりもせずに、子供も大人も楽しめる長編アニメが作れるということ。『トトロ』はその証明だと思うのです。

ただし、まったく毒がないかにみえるこの作品にも、よく考えるとやはり影はあることに気づきます。例えば、物語の中盤、塚森の大きなクスノキを前にしたお父さんの科白です。「昔々は木と人は仲良しだったんだよ」。何気ない科白ですが時制に注目してください。過去形が使われています。『トトロ』の世界で、この時点で、木と人が仲良しだったのは過去の話だと、サツキとメイの父親が明言しているのです。そういう目で作品を観てみると、ほかにも色々気になってきます。冒頭でサツキとメイがはしゃいでいたのは、元気いっぱいだからというだけじゃなく、彼女らにとっても豊かな自然は珍しいものだったからじゃないか、とか。井戸の使い方はおばあちゃんに教えてもらっていたサツキが、電話の扱いは手慣れた様子だったこととか。お父さんの大学の研究室が一瞬出てくる以外には、村の外の世界は一度も画面に出てこないこととか…。

もしかすると、トトロの存在とは無関係に、あの美しい農村はそれ自体がすでにファンタジーだったのかもしれません。そう思うと少し切なくなると同時に、「宮崎監督恐るべし」と襟を正す思いにかられる、2014年の夏です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: DVD
感想投稿日 : 2014年7月25日
読了日 : 2013年4月9日
本棚登録日 : 2013年4月9日

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コメント 2件

vilureefさんのコメント
2014/07/30

こんにちは。

素敵なレビューで花丸一つだけと言わずたくさん差し上げたい気分です(笑)

私も以前はナウシカなどの作品が好きでしたが、今は圧倒的にトトロですね~。
キャラクターの可愛さもさることながら、あの郷愁感は他では味わえません。

私の4歳の息子もトトロが大好きで、台詞を覚えるほどのヘビーリピートです(笑)
ポニョなども子供向けかなと思うのですがピンとこないみたいですね。

でも私の子供時代はまだトトロに表現される原風景がどこかしらに残っていた気がするんですよね。
だから懐かしいと感じる。
果たして息子の世代はトトロを見て何を感じるのだろうかと思います。
古き良き時代を知る上でも貴重な作品ですね。

佐藤史緒さんのコメント
2014/08/01

vilureefさん、こんにちは!(^o^)/ コメントありがとうございます。

私の息子も4歳でトトロが大好きです。
ヘビーリピートさせられるところも同じ。
トトロが好きならと思って他の作品を見せてもあまり喰いつかないところも同じ(笑)

仰るとおり、地域によって差はあると思いますが、
私の子供時代(昭和後期)には、まだそこここにトトロ的風景が残っていました。
私の住んでいたのは町工場が近接する住宅街で、決して自然豊かな土地ではなかったけど、
それでも田畑がいたる所にありました。
春は紫色のれんげ草、夏は水田の緑、秋は稲穂の黄金色、冬は白い雪景色…という具合に、
季節の変化を日常生活の範囲内で感じとることができました。
今はそういう風景は、日常を離れて意識的に見に行くようにしないと出会えなくなっています。
仕方のないこととはいえ、ちょっと淋しいですね。

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