戦後日本を代表する日本史家・網野善彦氏が著した本書は、「日本」という枠組みを批判的に検討する。
本書で語られるのは、「瑞穂の国・日本」から大海原へと漕ぎ出した海の民、「瑞穂の国=稲作国家」の枠に収まることなく農商工業を生業とした山の民、「単一民族国家」という「虚像」からかけ離れた列島内の多様性など、「日本史という枠組み」から逸脱した人々や事象である。本書を通じ、網野氏は「日本」という枠組みがいかに人為的で列島の実情に反したものであるかを明らかにしていく。
第二次大戦を経験し、その後共産主義運動に身を投じ程なく挫折した網野氏は、「『虚像の上に成立した日本』を徹底的に総括すべきである」との信念を持っていたといい、それが研究の原動力であったようだ。網野氏については「偏っている」という批判も多いらしく、私自身、氏とは真逆の心情を持っているが、本書を読む限り網野氏は学問的に極めて誠実であるように感じられ非常に尊敬の念を抱いた。
本書の解説で、「それでも『日本』なるものが力を持ち続けたことに答えていない」という批判が添えられていたが、私も同様の意見を持つ。また、普段統計解析を行っている身には、本書の定性的な議論はかならずしも満足できるものでなかった。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
歴史
- 感想投稿日 : 2017年7月29日
- 読了日 : 2017年6月29日
- 本棚登録日 : 2017年7月29日
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