かつて牛がそのバルコニーに顔を出したという混沌とした大統領府で、ハゲタカに食い荒らされた族長が発見されるシーンからこの物語は始まる。そして複数の語り手によって、彼の、権力への執着が生む疑心と臆病に満たされた、孤立した生涯の日々が語られる。語り手は、あるときは関係者、あるときは大統領自身、あるときはうわさ話であるが、だれもが(大統領ですら)名を持たない。主語の明確でない語りは、文章の端々に「そうであるならば」という言葉を響かせているようであり、仕掛けはギリシア神話に置かれていながらも、その情緒が日本的な精神性と大いに重なる印象が深く残る表題作は秀逸。
雨にはたき落とされた天使、凛々しく堂々たる体躯で生者を魅了する水死体など、神話的な枠組みで生と死を色濃く描く6短編を併録。
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- 感想投稿日 : 2015年11月26日
- 本棚登録日 : 2015年10月14日
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