アベンジャーズ [DVD]

監督 : ジョス・ウェドン 
出演 : ロバート・ダウニーJr.  クリス・エヴァンス  マーク・ラファロ  クリス・ヘムズワース  スカーレット・ヨハンソン 
  • ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
3.59
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本棚登録 : 1228
感想 : 198
5

 王道ヒーロー、「内輪揉め」
 日本よ、これが映画だ。
 マーベルコミック出身の人気ヒーローが一致団結し巨悪に立ち向かうアメリカン・ハリウッド・ムービー。「キャプテン・アメリカ」、「ハルク」、「マイティ・ソー」、「アイアンマン」等々のヒーローが登場する大スペクタクルのヒーロー映画である。
 非常に面白い映画だった。ハリウッド特有のアメリカンマネー大投入による視覚効果もさることながら、様々な生い立ち、能力、性格のヒーローが互いにぶつかり合いながらも協力する様が素晴らしい。根っ子では完全に気が合わないのに巨悪を討つ為に協力する様は王道のヒーローを描きつつ、ヒーローに対するアンチテーゼもまた描いている。徹頭徹尾面白く飽きさせない脚本も魅力的だった。

 あらすじ。
 アメリカは秘密裏に無限のエネルギーの供給を可能とする物体四次元キューブを所有し、研究していた。だがキューブの向こう側に存在する世界から、ロキが現れキューブを強奪。ホークアイとエリック・セルヴィグを洗脳してしまう。
 未曾有の危機の到来を予感したニック・フューリーはアベンジャー計画を再始動。ブラック・ウィドウやフィル・コールソンの協力を得、「アイアンマン」、「ハルク」、「キャプテン・アメリカ」の召集に成功する。四次元キューブの発見を目的に行動し始めるトニー・スタークとブルース・バナー。一方、ロキは堂々と公衆の面前に現れ人々を襲う。ホークアイもまたイリジウム強奪と言う任務を遂行していた。ロキの暴虐を止め、逮捕に成功するアイアンマンとキャプテン・アメリカ。だが護送中にロキの兄「マイティ・ソー」がロキを攫い、尋問する。マイティ・ソーとアイアンマンは軋轢を起こすが、キャプテン・アメリカの説得により三人とロキは基地への移動を終える。四次元キューブの追跡を続ける中、アメリカのキューブの使い道がエネルギーだけではなく、超破壊兵器であることを知ったアベンジャーズの面々は、ニックと口論に発展しやがてヒーロー同士互いの信念や価値観の差異を理由に内輪揉めを始める。そこにホークアイの襲撃が有り、ホークアイの洗脳を解くことには成功するものの、ロキを逃がしてしまう。
 四次元キューブにより異次元への扉が開かれ、無数のエイリアンがニューヨークの町を侵略し始める。襲撃の際、フィルが亡くなったことから、アベンジャーズは団結し、ニューヨークの町を護ることに専念する。だが「理事会」はエイリアンごと核攻撃し焼き払う作戦を実行。ニューヨークに向けて核弾頭を発射するが、アイアンマンの機転で核弾頭は異次元で爆発する。エイリアンの襲撃を止め、ロキを捕らえたアベンジャーズは、マイティにロキを任せ町を護りきる。
 後日、皆で集まって食事をするも特に話題がなく、会話の無い食事をすることとなった。

 この作品の肝は様々な作品のヒーローが一堂に会し戦闘を繰り広げるところだ。優等生タイプの超人、キャプテン・アメリカ。捻くれものの天才、アイアンマン。ネガティブで怒らせると怖い、ハルク。敵であるロキへ情が捨てきれない、マイティ・ソー。更に国家に所属する工作員であるホークアイとブラック・ウィドウと錚々たる面子が揃っている。キャプテン・アメリカは正義感の強さがアイアンマンと合わなかったり、科学的な話についていけずに天然発言をする脳筋ぶり、情報収集が完全物理など純然たるヒーロー過ぎるところが魅力的だ。対してアイアンマンは個人主義者。気になるという理由で国家に対しハッキングするし、声優が同じということもあるかも知れないが、『ダークナイト』のジョーカーのような軽口やジョークで人を挑発するし、問題児振りが目立つ。だがスティーブ・ジョブズばりの身振り手振りでプレゼンする様や、同じ科学者であるハルクに対しては若干友好的なところなど、不思議なカリスマ性を感じさせる。ハルクは非常にネガティブでニックに会うや否や「どうすれば帰れる?」と聞く。だが仕事はきっちりとこなすあたりヒーローだ。マイティ・ソーは神に等しい能力を持つも、弟であるロキに対して非常になりきれない。またヴィランであるロキも邪悪で喰えない神の名を冠している割には小物過ぎて魅力的である。『マスク』にもロキの名は登場したが、大分キャラクター性が違う。アメリカには神話が原住民のもの以外はキリスト教やユダヤ教くらいしか存在しないので、他国のものを引用するしかないのだろう。下手にキリスト関連の話題には触れられないだろうし。様々なヒーローが持つ主義や性格、能力の違いが生む軋轢もまた、この映画の見所である。
 ストーリーは『七人の侍』や『ラブライブ!』方式。事件が起きて、解決のためにメンバーを集めて、協力して戦う。ストーリーそのものは王道で非の打ち所がない。飽きさせない登場人物のやり取りや主義主張のぶつかり合いもまた魅力的だ。ただストーリーを動かすテーマそのものは自由VS支配というアメリカン過ぎて笑うしかない主題で、ロキが人々を脅した際に白人の老人が立ち上がり、それをキャプテン・アメリカが護る様はアメリカの自由主義を端的に評し過ぎていて、露骨さがギャグの領域に達している。そこもまたアメリカらしさがあって面白い。
 世界観はヒーロー大集合の一言に尽きる。ヒーロー本人たちの反りが会わな過ぎるのも良い。ラストで全員で食事を取るも、話題がないため無言で食事を進めるしかない様は主要ヒーローの関係性を端的に示している。『ペルソナ3』における、仲間というより同僚という関係性に非常に酷似している。それでも世界を救えるのだから大したものだ。
 テーマは自由主義以外にも主義主張の齟齬や正義の価値観などがある。利他主義のキャプテン・アメリカは当然利己主義のアイアンマンと対立するし、国家への不信感があるハルクは超兵器の発明を知り、不機嫌になる。マイティ・ソーもまた四次元キューブの悪用に難色を示すが、ニックも負けず劣らず地球が宇宙人から自衛するために不可欠だと主張する。また超人のキャプテン・アメリカはスーツを脱げばただの人であるアイアンマンを挑発するし、アイアンマンも科学者として超人は本人の発明ではないと強弁する。互いが異なる能力と価値観、性格、正義を有するためそれぞれの思想にアキレス腱があり、また譲れない信念がある。そのぶつかり合いこそがこの映画の肝である。正義の協力を描きつつ、正義の形が一つではないことを描いている作品なのだ。『仮面ライダー龍騎』や『ウォッチメン』とは全く異なる形で正義の多様性を描いている。ジョック気質のキャプテン・アメリカ、ギーグやナードに分類されるであろうアイアンマンとハルク、女性のブラック・ウィドウ、黒人のニックと様々な立場の人間がそれぞれの立場で発言し合う様は、アメリカの成長を感じさせる。スクールカーストの悪名や人種差別などなんやかんやで問題が山積みであるものの、相応の進歩を遂げているように思えた。『ブレックファスト・クラブ』とは着眼点が同じだというのに、面白さがここまで違うのはやはり団結する理由の有無なのだろうか。だが敵がいなければ団結できない、というのは『ウォッチメン』でも語られた問題でもある。いなかったらいなかったでそれぞれ勝手にやるのだろうけれど。
 映像は文句なし。アイアンマンのスーツ着脱がこの上なくカッコイイ。男のロマンの詰まったギミックの塊だ。『Mr.インクレディブル』では科学的なヒーローパワーに対して否定的だったが、アイアンマンは科学に対して肯定的なヒーロー像として完成されている。敵であるエイリアンの造形や爆発、建物の崩壊も含め非常に金のかかった創りになっている。資本主義のよるマネーパワー。特に日本はこの手の絵空事と言われてしまいそうな映画に金をかけない体質がある。最も素晴らしいのは自然主義だと妄信しているし、『進撃の巨人』の実写も決して金がかけられなかった。これらの点から考えても、エンターテイメント作品への投資力という点では「日本よ、これが映画だ」と煽られても仕方が無い体質がある。だが日本には自然主義的映画への熱意や制限の中で全力を発揮するノウハウなど、アメリカとは違った魅力を持っているので一概にアメリカに劣っているとは言えない。だが純粋なエンターテイメントにおいては完全に後塵を拝していると言っても過言ではない。絵空事を軽んじたツケが回ってきたのだ。
 台詞は主にアイアンマンの中の人、トニーの軽口やジョークが良い。キャプテン・アメリカ、スティーブの天然発言やハルクのネガティブ発言など、それぞれの個性が出ている。またそれぞれの主張の揺ぎ無さもまた信念の強さを感じさせて良い。
 総合的に見て非常に面白い映画だった。それぞれの映画をまだ見ていないからだろうが、アイアンマンが少し目立っていたのもあまり気にならなかった。人気が出てもおかしくない、高いクオリティを誇る映画だった。

キャラクター:☆☆☆☆☆
ストーリー :☆☆☆☆☆
世界観   :☆☆☆☆☆
テーマ   :☆☆☆☆☆
映像    :☆☆☆☆☆
台詞    :☆☆☆☆☆

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2015年11月24日
読了日 : 2015年11月24日
本棚登録日 : 2015年11月24日

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