カメラの前で演じること

  • 左右社 (2015年12月21日発売)
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本棚登録 : 182
感想 : 15
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(01)
映画「ハッピーアワー」は2016年2月に鑑賞している。その約1.5年後に読んだ本書にも泣けた。サブテキストには脚本にない恋愛のシーンが収められているが、本編が破局的であったために、よりそれら恋愛のはじまりにあった魂の初動が感動的であった。
という点で、既にキャラに感情移入をしているが、演者がどのようにこの映画のキャラを造形し、リアルな身体を与えて、身と心を託し、そのことで観客や読者の感情移入を誘い込むかについて、脚本を担った一人であり監督でもあった著者が、その工夫(*02)や試行を、惜しみなく明らかにしてくれている。

(02)
「はらわた」とは何なのか、映画のテーマにも関わる問題でもある。演技の肝でもある。嘘を本当として演ずること、カメラは無思慮にその嘘と本当を腑分けしてしまうこと、誠実に本気でもあることがカメラの前で本当を生み出すこと、といったコツというよりキモが「はらわた」でもあった。
映画鑑賞時には、その逆説的なトレンディドラマ性に撃たれたと感想した。バブル期、職業俳優、恋愛のトレンド、ファッションと労働、何か全てが浮き足立っていて、それはそれで表象としては面白かったのだけれど、これら90年代を盛期とする表象のアンチテーゼとして、トレンディなテレビドラマの20年後の映画を観た。
映画「ハッピーアワー」(*03)に現れた破局と誕生の物語は、やはり肚の座った、肚を割った脚本と演技に支えられていた事を本書により痛感することができる。

(03)
映画は5時間超であるが、活字慣れした眼であれば、それよりは短縮して、本書に収められた脚本を読み通すことができるだろう。映画は必見であるが、その精髄を掴むために本書を利用することも可能ではあるだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: aesthetics
感想投稿日 : 2017年6月5日
読了日 : 2017年5月29日
本棚登録日 : 2017年5月25日

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