新書520 下流老人 (朝日新書)

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  • 朝日新聞出版 (2015年6月12日発売)
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本書でいう下流老人とは、「生活保護基準相当で暮らす高齢者、およびその恐れがある高齢者」である。

誰が本当の捨て石なのか?
たまたま、某アナウンサーの捨て石発言に関連して考えていたことが、本書の冒頭に書かれていた。

子供を生み育てないことは、下流老人にならないという観点でみれば、経済合理性のある選択肢となる。言い換えれば、子供を産み育てる選択をした人は、社会のために捨て石となっているのかもしれない。
子供を生み育て、そして高等教育を受けさせるには莫大な費用が必要になる。
それを自分の老後のために積み立てることは、自らが下流老人にならないための選択肢の1つである。

第2章以降、下流老人の生活実態、そしてなぜ人が下流老人と、なってしまうかというプロセスと、多くの現実に対応してきた筆者だからできるリアリティを持ったレポートが続く。

そして、我が国の憲法で認められている生存権が、行政の仕組みとして担保されない構造になっていること、また、国民の空気がそれを追認しているとの厳しい指摘。

家族制度の変容、急速に進む少子高齢化の中で、かつて機能してきていた制度ではもう社会を支えきれなくなってきている現実がそこにある。

そして、終わりに下流老人にならないため、私たちにできるヒントが書かれているが、やはり個人ができる究極の対策は、充分なお金を持っていることだろう。

したがって、経済的な観点から見れば、捨て石発言したアナウンサーは、子育てを行った人々(捨て石)の犠牲の上に下流老人にならない老後生活を過ごすことができると、言えるかもしれない。

ただし、その選択肢はわが国が未来に継続していくことを阻害し、また、お金で買えると考えていた安楽な老後生活それ自身を失う事になりかねない劇薬ではある。
なぜなら、お金はそれ自身で自分を介護してはくれない。お金を代償に世話をしてくれる将来の他人を必要とするからである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2016年2月20日
読了日 : 2016年2月20日
本棚登録日 : 2016年2月15日

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