新潮 2017年 04月号

  • 新潮社 (2017年3月7日発売)
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本棚登録 : 181
感想 : 28
4

これぞ純文学といった感じの小説でした。
言うまでもなく、「火花」で華々しくデビューを飾り、芥川賞まで獲った又吉直樹の受賞後第1作。
今回は恋愛小説です。
これが読みたくて、「新潮」4月号を買いました。
我ながらミーハーですね。
さて、本作です。
主人公で劇作家の永田は、東京の街中で沙希と出会い、やがて一緒に暮らし始めます。
恋愛とは言い条、そこは又吉のことですから、すんなりとはいきません。
第一、出会い方からして異様です。
かつて「幽霊」と呼ばれたこともある永田は、街中で画廊を覗き込む沙希を見つけ、「この人なら自分を理解してくれるのではないか」と思います。
そして、沙希の隣に立ち、こう声を掛けます。
「靴、同じやな」
沙希は「違いますよ」と答えます。
永田は重ねて言います。
「同じやで」
完全に危ない人です。
ただ、沙希は天性とも言える優しさで、ナイーブで不器用な永田を愛そうとします。
それに十分に応えられない永田。
純文学における恋愛小説の定型的な説話構造を踏まえながら、又吉の筆は繊細に、時に軽妙な筆致で二人の関係をすくい取っていきます。
先日放送されたNHKスペシャル「又吉直樹 第二作への苦闘」でも紹介されていましたが、中盤で永田が沙希と手を繋ごうとする場面が印象に残りました。
手をつなぎたいという一言すら、すんなりとは言えない永田に、沙希はこう言います。
「本当によく生きて来れたよね」
ジンと来ました。
永田は劇作家としてなかなか日の目を見ません。
お金もなく、実質的に沙希のヒモとして鬱屈した日々を送ります。
そこへ才能に恵まれた小峰という劇作家が現れます。
永田は小峰に嫉妬します。
その嫉妬を巡る永田の考察がまた興味深い。
長いですが、引用します。
「自分の持っていないものを欲しがったり、自分よりも能力の高い人間を妬む精神の対処に追われて、似たような境遇の者で集まり、嫉妬する対象をこき下ろし世間の評価がまるでそうであるように錯覚させようと試みたり、自分に嘘をついて感覚を麻痺させたところで、本人の成長というものは期待できない。他人の失敗や不幸を願う、その癖、そいつが本当に駄目になりそうだったら同類として迎え入れる。その時は自分が優しい人間なんだと信じこもうとしたりする。この汚い感情はなんのためにあるのだ」
読み手である自分にまで鋭い刃を突き付けられているようで、胸が苦しくなりました。
うん、いい小説です。
というか、かなりいい小説だと思います。
大変な重圧がかかる中で、よくこんな作品を書き上げたものだと感服するほかありません。
やっぱり又吉はいいなぁ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年3月16日
読了日 : 2017年3月16日
本棚登録日 : 2017年3月16日

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