賢人は人生を教えてくれる

著者 :
  • 致知出版社 (2012年7月10日発売)
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本棚登録 : 54
感想 : 8
5

全体を通して、時間の価値、生きることの意味、死との向き合い方などについて、考えさせられる好著である。
本書は、故谷沢永一との対談を予定していたものの叶わなかった為、単著として出版されたものである。よって、セネカの『人生の短さについて』及び谷沢永一『ローマの賢者セネカの知恵 ~「人生の使い方」の教訓』から引用しながら、筆者の考えが語られている。
 ただセネカの解説をするのではなく、時にはセネカと、または谷沢氏とは異なる考え方を示している。ローマの時代と現代との違いも踏まえ、現代人がセネカから得られるものを精選しているように感じられる。また、セネカの思想を引用しつつ、『論語』、陶淵明、吉田松陰、幸田露伴、新渡戸稲造等々の言葉や生き方が比較されており、東西での思想の違いなどにも思いを致すことができる。碩学渡部昇一氏だからこその筆の運びである。
 また、セネカの人生についても簡潔にまとめてある。特に皇帝ネロから自殺するように命じられた最後の場面は、哲人の死に対する姿勢を感じることが出来、読み応えがあった。「自殺する力が意志の力の証明でもある。」というセネカの言葉は日本の武士にも通ずるところがある。これに対し渡部氏は、「自殺は独立を保障するものであるという見方をしている。」「自らの意志によって積極的に死を選ぶこともできる、自らの死を選択することで無駄死にせず、そこで生を輝かせることもできる」と続けている。「命が何よりも大切」と考えることが当たり前になった現代人の考えるべきテーマであると思われる。
 その他印象に残ったのは、「オティウム」(閑暇)と「ネゴティウム」(仕事)という二つの概念の対比、セネカの人生観と現代人の生き方を比較していくところは興味深かった。渡部氏は「これがいい」と断定するのではなく、様々な価値観を受け入れようとしている姿勢が見られる。物事を多面的に考える訓練にもなりそうだ。
折をみて、また読み返したい一冊である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 渡部昇一
感想投稿日 : 2015年11月24日
読了日 : 2015年11月22日
本棚登録日 : 2015年11月24日

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