ストーリーの舞台は第2次世界大戦がはじまらんとしているころの軍事独裁政権のポルトガル。
隣国スペインでは市民戦争が、又イタリアではムッソリーニが政権を執り、ポルトガル政府はナチスドイツと同盟関係にある。
不穏な空気が徐々に蔓延しつつあるリスボンで時代の閉塞感を感じながらも、淡々と文芸面を担当する新聞記者であり妻に先立たれた冴えない中年男性ペレイラが主人公。
明確に意図したところではないにもかかわらず、ペレイラはいつしか見えざるものに導かれるようにして反政府組織の抵抗運動に巻き込まれていく。本書にたびたび出てきた表現を使えばペレイラのたましいの主導的エゴが変遷していくさまを描いているといえるかもしれない。
  
巻末に おそらく著者タブッキがこの本を書き終えたであろう日付が記されている。

1993年 8月25日 

つまり今から19年前に描かれた本ということだけどこれは少し意外な感じがした。こういう題材を扱うのはおそらくもっと戦争の傷跡が生々しい1950年代から70年代くらいに描かれたはずという先入観をどこかに持ちつつこの本を読んでいたからだ。
巻末の訳者 須賀敦子さんの解説を読んで納得した。
これが書かれた1994年は20世紀前半の忌まわしい政治思想を
いつ国民が選択してもおかしくない と思わせる政治情勢に再度イタリア国内が入り込んでしまった頃だったようだ。
著書は場所をあえてポルトガルという隣国に設定しつつ、時代もその忌まわしい20世紀前半に据えたうえで、この本が書かれた当時のイタリアの状況に一石を投じるつもりでこの本を書いたのではないか ということがうかがえる。
1994年に実際発売されてすぐにベストセラーのトップを飾り
一年あまりにわたるロングセラーとなったそうだ。

200ページ足らずのこの本を25章に分け、こきざみに場面を変えながらテンポよく物語はすすむ。
そして いずれの章も 供述によるとペレイラは という一文で始まる。
その言葉の意味するものが深く心に突き刺さるのは全文を読み終えたときだ。

2012年8月24日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2012年8月24日]

私が彼女と同い年くらいのころから
何度となく挑戦し
あるときは少女の驕りに嫌気がさし
又あるときは ペーターとのくだりだけをつまみ読みし
結局はいつも途中で投げ出していた本ですが
このたび、やっと最後まで読むことができました。

13歳から15歳の間に描かれた赤裸々な少女の日記を
今の私の年代の人間が読むとどう感じるか。
おそらく、母の側から大人目線で字を辿るのではないかと思っていましたが
予想に反し意外なことには 読んでいる間、
完全に自分はアンネの世界から物事を見ていました。
大人のこんなところが許せない といった感情や
自己嫌悪とプライドや虚栄心がないまぜになったごちゃごちゃの思春期の心理状態などを
リアルに思い出していました。

そうしてやはり彼女の 
もしくはもっと普遍的には 人間の といったほうが良いのかもしれませんが
その しなやかな強さに
ただただ感嘆するばかりでした。
もちろん 少女だからこそもつみずみずしい感性や
年齢を超えた理性や洞察力にも。

隠れ家生活がどんなにストレスフルで苛酷か
ユダヤ人がどれほど悲惨な思いをしていたか
戦争の異常さ それを受け入れた時代の民間人の反応
日々の日記から時間をなぞることで
より実感できたような気がします。

生きている間にこの本を読め
彼女とあうことができてよかったです。

アンネの希望は将来作家かジャーナリストとなって
人々の心の中で生き続けること と書かれていました。
その願いがかなって、世界中の多くの人の心の中で
彼女が生き続けていることは
悲しい結末だった彼女の人生を思うとき
大きな慰めとなります。

素晴らしい書とは年代、境遇 すべてを超えて
いつの時代にも訴え続ける力があると感じました。

2012年9月13日

読書状況 読み終わった [2012年9月13日]

転校生というのは今時だと それだけでいじめの対象になったりと
大変なことが多いらしいが
一方でこの小説に出てくるコンラディンのような内向的な魅力ある子が転校生となると
そのミステリアスな部分がさらに増幅され、より一層の抗いがたい魅力を放つことがあるのかもしれない。
そしてさらにはお互いが孤独の中で唯一認め合う存在となった場合には
おそらく一生涯忘れえぬ幸福な出会いとなるはずだったのに、、、

第2次世界大戦のナチスによるユダヤ人迫害が
具体的にそこに生きた人の心理にどんな影響を及ぼしたか ということが
あまり直接的な表現ではないが 通奏低音として小説全体を通しての暗いトーンを作り出していて
改めてそのことを考えさせられた。

最後の一行でのどんでん返し というか 仕掛け は本当にドラマチックで衝撃的。

原題はreunion でこれはまさにこの作品の本質を端的に表していると思うが
残念ながら日本語で 再団結などと直訳しても
どうもニュアンスが違う気がする。
友情 では すこしおおざっぱすぎる気がするが
日本語ではうまく該当する言葉がないのだから
しょうがないのだろう。
きっと翻訳というのは思ったより難しい作業で
訳者のセンスが問われるものなのだろう と思った。

中学生の息子にも是非読んでほしいと思う本だった。 

2012年4月16日

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読書状況 読み終わった [2012年4月16日]
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