芥川賞受賞のインタビューで、刺激的な悪態をついた著者を
どこまでパフォーマンスが入ってるんだろ…? なんて、
半ば、よこしまな気持ちを持って手にしたのが本書だった。
あれは、著者の気持ちの飾り気ないストレートな発露だったろう…
「不意の償い」「蛹」「切れた鎖」の3編…
川端賞・三島賞のダブル受賞という随分と評価の高い短編集だ。
小説を読む恐ろしさは、気づかずにある内面を引きずり出され、
歪によどんだありのままの様をつきつけられることにある。
どの作品からも、そうした領域に切り込んでゆこうとする、
著書の文学的に真摯な姿勢を感じた…
たとえば冒頭作「不意の償い」は、妻となった女と
はじめて関係を持ったところから語られる…
そのとき、親を火災で亡くし、女は子を宿した…
いかにもつくりものめいた話だ。ただ、作品は、
そうしたかりそめの物語には拘泥せずに、
男のねじくれた気持ちのありようを語る…
ありていに云ってしまえば、男が女と関係を持つ時、
かならずや疚しさがあるに違いない…ということ…
愛情とは、愛しながらも自らの欲情を満たすことであること…
それは、男ののっぺきならぬ性(さが)であること…
そんなことが、逡巡し、よどみ、ねじれながら、
そのまま文章になっているのがこの小説だった。
ボクには、男の偽らざる気持ちが
ありのまま描かれているように感じられたのだ。
負の意識を持たぬ作者の書くモノで心をえぐられることはない。
それをストレートに表現することが、いかに難しいかは、
なにも作家でなくとも、誰しも思うことだろう。
そんな文体のような態度が、受賞時の作者だったのかもしれない。
- 感想投稿日 : 2012年2月10日
- 読了日 : 2012年2月9日
- 本棚登録日 : 2012年2月9日
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