ナミヤ雑貨店の奇蹟

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング) (2012年3月28日発売)
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お店が閉まった後シャッターのポストに相談事を書いた手紙を入れると、翌朝店の裏の牛乳箱に返事の手紙が入っている。
ナミヤ雑貨店の店主(ナミヤさん)が一所懸命考えて回答を書いてくれるのだ。

1人では決意出来ないこと。
とにかく誰かに聞いてほしいこと。
自分の考えが間違っていないと確かめたいこと。

身近な人には話せないことが、通りすがりの人には話せたりするけど、近所の雑貨店の人という距離も同じだろうと思う。
しかも匿名で手紙を書いて、その手紙に真剣に答えてくれる人なんて滅多にいない。
うらやましいなと思った。
変なことを言ってはいけないとプレッシャーを感じながら出してくれた回答を受け取れること。
そしてその後どうしただろう?と心配しつづけてもらっていること。
そのどちらもとてもうらやましい。

この物語の中にはナミヤさん以外にも回答者が登場していて、彼らの回答はナミヤさんとはかなり趣が違う。
彼ら自身も自分の未来が見えない場所にいるから、相談者の境遇が恵まれた者の甘えに見えたりもする。
苛立ちを表現してしまう場面もある。
でも、ナミヤさんの回答の方が相談者にとって有益で、彼らの回答は役に立たないということではない。
むしろ聞くのは誰でもいいんじゃないかとも思う。
もちろん騙してやろうとか利用してやろうとか、悪意を持っている人に相談したらダメだけど。

自分が悩んでいることを話して、人に意見も求める過程で自分がどこに引っかかっているかが見えてくる。
もちろん相手にもそれは伝わる。
それを踏まえて語られる相手の意見をはその引っかかりの結び目を別の視点で見せてくれる。
きっとその視点が自分の凝り固まった視点とかけ離れていればいるだけよく見える。
最初は反発してもいつか気付ける。
自分が選んだ道も選ばなかった道もどちらも同じ道だったということに。

物語の中では相談者が選んだ道が正解だったかのような書かれ方をされている箇所もあって、その道を選べたのはナミヤ雑貨店の回答のおかげと相談者は信じている。
でも本当はナミヤさんが語っている通りで、大事なのは回答ではなくて本人の心がけなんだと思う。
誰かの意見を聞いてその通りにしたとしても、それを行うのは自分。その道をどんなペースで歩くか、誰と歩くかを決めるのは自分なのだから。

後悔しないために必要なことは、この道しか選べなかったと思うことなんじゃないかと思う。
他の道もあったかもしれない、いや実際にあった。だから悩んだ。
だけど私は徹底的に向き合って、結果としてこの道を選んだ。
だからやっぱり私にはこの道しかなかったのだと。

人が人に相談するのは正解が知りたいからじゃない。
自分の気持ちが知りたいからなんだ。
誰かにNOと言われても曲げられない気持ちを知りたいからなんだ。
そう思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2013年7月6日
読了日 : 2013年7月6日
本棚登録日 : 2013年7月6日

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