聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた (講談社ノベルス)

著者 :
  • 講談社 (2016年7月7日発売)
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本棚登録 : 355
感想 : 56
4

 『その可能性はすでに考えた』の続編である。前作は、多重解決もののようで、多重解決ものではなかった。今回は、正真正銘の多重解決ものである。前作が意欲作だった点は買っていたので、読んでみた。

 ある婚礼の席で、新郎・新婦を含む8人が、同じ盃を回し飲みしたところ、8人中の3人および乱入した犬1匹が死亡した。死因は砒素中毒。なぜ3人と1匹だけが死亡したのか? 砒素を隠し持っていた新婦に、疑いがかかるが…。

 事件そのものの構図は至ってシンプル。焦点は、誰が、どのように、3人と1匹だけを殺害したのか。現場にかけつけたのは…あの胡散臭い青髪の探偵ではなく、その弟子という小学生。彼が、前作のように一つ一つ可能性を潰していく。

 堂々巡りの議論は、それなりに読み応えがあるが、第一部ラストで…は? ポカンとしたまま第二部に進むと、なぜか舞台は海上に停泊した客船へ。舞台が移る経緯については書かかないでおく。裏社会の大物の逆鱗に触れた理由とは?

 多重解決合戦の続きも読みどころだが、前作にも登場したある人物が、窮地をいかに切り抜けるか焦っているのが興味深い。そりゃそうだろう、ばれたら洒落にならないのだから。と、そこに、いよいよ主役の青髪の探偵が降臨!

 前作を読んでいないと、人物関係がわかりにくい面もあるが、事件そのものはシンプルだけに、いずれの説も、前作より論理展開に無理が少ない。その反面、何でもありな前作より、小粒な感もあるかもしれない。

 唐突な告白による幕切れの後、脱力するオチが用意されていた。今までの議論は何だったんだよ、おい…。しかし、不思議と腹は立たないのだった。青髪の探偵は、懲りずに「奇蹟」を追い求めるのかねえ。

 たったこれだけの設定を、ここまで膨らませて長編に仕立てる手腕は、ある意味すごい。まだ続編が出るなら、つき合ってもいいかな。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 井上真偽
感想投稿日 : 2016年7月11日
読了日 : 2016年7月11日
本棚登録日 : 2016年7月11日

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