ボルジア家: 悪徳と策謀の一族 (中公文庫 M 343)

  • 中央公論新社 (1987年7月1日発売)
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古本で購入。

「ボルジア家」と言えば中世イタリアに黒々と足跡を残した悪の一族―
毒薬カンタレラによる暗殺、神をも恐れぬ暴虐、付きまとう近親相姦の噂…スキャンダラスな話題として取り上げられること、昔も今も変わらない。

しかし本書はそういうゴシップ趣味的なものではなく、歴史上におけるボルジア家の位置付けを試みようという“真っ当な”本だ。
「悪徳と策謀の一族」なんて刺激的な副題が付いてるが、巻末にある原題を見る限り、これはどうも中公文庫の編集者が“やらかした”のではないか。

原書が30年前のものなので史料的な制約などがあるかもしれないが、おもしろい。翻訳もだいぶスッキリしていて読みやすいのもいい。
まぁ人物名の覚えられなさはこちらの責任と言えようか…

評価したいのは、ボルジア家前史とも言うべきアロンソ・デ・ボルハから書き起こしているところだ。
スペインの土着郷士で僧侶だったアロンソが王の側近となり、ついにはローマ教皇カリストゥス3世となってローマの地に勢力を扶植していく。
その甥にしてボルジア家の絶頂を築いたロドリーゴ・ボルジア(後の教皇アレッサンドロ6世)、そして彼の子、ボルジアを象徴する人物チェーザレに至りボルジア家興亡史はクライマックスを迎える。

ロドリーゴとチェーザレ父子による教皇領の支配は短期間で崩壊したものの、著者はそれを
「きわめて興味深い政治的実験であって、歴史的影響も大きかった」
と評価する。混沌の極みにあった中世イタリアを、次の段階へと推し進めるきっかけをつくったのが、ボルジア家と言えるだろうか。

それにしても当時のパワーバランスやそこに渦巻く謀略、日常茶飯事の裏切りに殺人など、イタリア全土をあげて「悪徳と策謀」と言っていい。
この時代背景を知った上でボルジア家のなしたことを見てみれば、殊更に糾弾されるのは理不尽というものだ。

惣領冬美『チェーザレ』(講談社)のつながりから読んでみたわけだが、この時代のイタリアはかなりおもしろい。
このあたりにも手を広げて読んでみようか…

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2013年9月20日
読了日 : 2013年9月20日
本棚登録日 : 2013年9月20日

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