心の先史時代

  • 青土社 (1998年8月1日発売)
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感想 : 8
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2015.6.10人間の心を理解したい、そして人間は進化してきた生物だ、ならば心の進化を知れば、先史の心が如何にあったかを知れば心を理解できるのではないか、という問いから始まるこの本は、まるでホームズの推理小説のようで、ひとつの仮説を考古学の証拠が見事に肉付けしていく様は感嘆の一言に尽きる。内容もさながら、論の運び方にも非常に感銘を受けた。無論、これが絶対解という訳ではないか、そもそも心なんていうよくわからないものを、文字による文献もない先史にまで遡って明らかにするということ自体、なんだそれって思うし、しかしそのなんだそれ、が、見事に論じられているのである。ここでいう心は、脳をハードウェアにした場合の、ソフトウェアのようなものである。個体の成長は系統の進化を反映しているとの見解から、現代の人間の心理構造を明らかにし、それらが先史に照らし合わせてどの年代からどの心の段階が現れ、どう進化していったのかを豊富な考古学的証拠から分析してきる。私はこの心の構造進化を、色のように例えられるのではないかと思う。つまり最初期、猿との共通祖先の時期における一般知能は白紙のようなもので、その白紙に学習によってつけられる色が後にまとまり、言語、博学、社会、技術などのそれぞれの色に特化した。そして最終的にはそれらの色を、他者からの色の伝達と自らの内省的意識を元に混ぜ合わせ始め、最初は原色が数色しかなかったものが、多彩な色を作り出せるようになり、その結果が文化ビッグバン、芸術や宗教、科学や農業のスタートだったのだと思う。様々な色を混ぜ合わせることがこのような知性の革新を生み出すことから何が学べるか、それは我々の心も同様の構造を持っているので、様々な教養を幅広く学ぶこと、そしてそれらの色を混ぜ合わせることが想像力、創造力、ユーモアに繋がっていくということ、すなわち教養の大切さではないだろうかと思った。数々の証拠を元に説得力ある主論を展開する痛快さ、600万年前の祖先から心の進化を辿るロマンを味わえた名著。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2015年6月10日
読了日 : 2015年6月10日
本棚登録日 : 2015年6月10日

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