戦後中流層の『斜陽』物語。
ハッキリ言って、人間は生まれた時から格差の中に放り込まれる。
本当は一部の成金を除いては、格差の上階層へ移動することなど不可能なのだ。
しかし、これからも景気は上向き続けるという幻想のもとにローンを組み、不動産を手に入れることで、自分もなんだか中流になっちゃった、とみんなが浮かれ踊ってしまった時代があった。
後からバブル期と名付けられ、その時にはすでに泡ははじけていた。
…などと冷静に書いているが、もう、自分とかぶり過ぎて、小説とは、ラストのクライマックスで泣くものだろうが、ダブルヒロイン(母と娘)の母世代の事情が説明されるくだりで、号泣したくなった。
収入にそぐわないローンを組み、世帯主の給料は半減し、年金支給年齢は上がり、不動産価値は下がり続け、子供はまともに就職できない。
集合住宅は老朽化で、建て替え問題で住民は揉める。
娘世代は、幼なじみ3人組のそれぞれと、たらい回しされる、土地持ちナルシストボンボンが描かれるが、このあたりは、何の苦労もなく不動産で暮らせる、真のお金持ちがうらやましくはあるが、あまりに自分とかけ離れ過ぎて憎しみさえわかず、お坊ちゃまキモ~イ、と笑える部分である。
頼子同様、節約に悩みながら必死で生きてきたが、もしかしたら、世の中の価値観というものが、戦争などという大事件無しにして、ぐるんとひっくり返ってしまった時代に遭遇してしまったのだろうか。
人生ゲームの上がりは「持ち家一戸建て」ではない。
雇用の安定は、無いが前提。
そういう時代になった。
とても考えさせられ、身につまされる内容だったが、やはりこの人の文章は読みやすく面白い。
最終章あたりで「そんなに上手くいくわけないじゃない」と思わせる部分があるのは「七十才死亡法案、可決」もそうだったが、それを差し引いても面白かった。
- 感想投稿日 : 2015年8月14日
- 読了日 : 2015年8月14日
- 本棚登録日 : 2015年8月14日
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