雁 (新潮文庫)

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投げた石が図らずも雁を殺してしまったように、鯖の味噌煮によって叶うことのなかった恋の話。

こういうことってあらゆるところで起こってるんだろうなぁ。
ただこの話は第三者によって書かれているから、鯖の味噌煮が回りまわって二人の出会いを妨げたことがわかったのであって、普通なら、何も気付かずにただ過ぎていくだけ。

こんな話を読むと、やっぱりタイミングがすべてなのかなって思ってしまう。

つい最近、親子でゴルフ場に来ていたら、突然大きな穴が開いて6m下へ転落し、命を落とした母親がいたけど、それも回りまわった偶然が起こした不幸ということで済ましてしまっていいのかな。
そんなのって辛いよなぁ。
タイミングですべてが決まるなら人はただ運命に身を任せよということですか。

答えはないけどね。


この話は森鴎外によって明治12年に書かれたものです。
解説に書かれていた時代背景がすごく参考になりました。

見てみると、これはいかにも明治13年の話らしい。民権運動などがそろそろ芽生え始めて、社会の一部には強く積極的に生きた女性などがあっても、一般的にはまだまだ正しい意味での自我の確立などあり得なかった時代の、極めて市井的な一女性の目覚めやその挫折がいかにもその頃のものらしい頼りなさと哀れさとを以て描き出されている。
そんなふうに、女がふみつけにされているところに、彼女の自我と個性の道が確立されるなどということが、どうして簡単にあり得よう。その意味で、この作品に描かれたお玉の運命と、それを包んでいた背景とは、いかにもしっくりと溶け合ったものになっているのである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 2009年 文庫・単行本
感想投稿日 : 2009年4月17日
読了日 : 2009年4月17日
本棚登録日 : 2009年4月17日

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