夏をなくした少年たち

著者 :
  • 新潮社 (2017年1月20日発売)
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本棚登録 : 151
感想 : 22

第三回新潮ミステリ大賞受賞作です。著者は新潟在住の方です。
書店でパラパラと眺めてみたら舞台も馴染みのある場所を描いているようです。
興味をひかれ、ついつい衝動的に購入してしまいました。
一読後の印象としてはエンターテイメントとしてのミステリ的な完成度、
つまり犯行の動機や、なぜ悲劇が起こったのか?などに関する説得力は今ひとつではあります。

しかしなんとも言えない魅力がある作品でした。
その魅力とはどんな部分なのか?振り返りながら少し考えていきたいと思います。

ストーリーのおおまかな流れを少し書きます。
東京で刑事として働く男が身元不明の殺人事件の被害者の顔を見て驚きます。
少年時代に関わりのあった人間であったのです。
しかし男はそのことを周りには伝えずに個人的に捜査することにします。
そして男は三日間の休暇をとり、生まれ故郷である新潟に戻ります。

なぜ男は、刑事としては考えられないそんな行動をとるのか?
そこにはそれなりの理由があるようです。
その謎はどうやら男が十二歳の頃に経験した悲劇的な事件に原因があるようです。
男は故郷に向かう道すがら過去を回想していきます。

まず思い出したのは地元でも知らない人がいないくらいの
悪ガキ「雪丸」と男「タクミ」が親しくなるきっかけの出来事でした。
その出会いがなければあの悲劇も起こらなかったかもしれないし、
今回の殺人事件もなかったかもしれない。
そしてタクミは真相をさぐることもなく、
そのままにしていた悲劇に決着をつけざるをえないと覚悟します。
彼は失ってしまったその頃の仲間たちの行方を追い始めます・・・・・。

というような内容のストーリーです。
前半はずっと一二歳の頃の回想です。
そのあたりを読んでいるとリアルに描かれているなあ、と感じました。
どんな部分がリアルかというと、一二歳というと、
子供なりに社会の中での自分が置かれている立ち位置みたいなものがわかってくる頃じゃないですか。
つまり生まれた家とか、能力や容姿などの面で、持っている人もいれば、そうでもない人もいる、
その格差みたいなものがじわじわとわかってくる。

そしてそれまでは自分たちを守ってくれていた大人たちが、
実は自分たちとさほど変わらない未熟な人たちである、ということも気が付き始める。
その結果、それまでは単純であった子供同士の友情というもののなかに少しずつ亀裂が入りはじめる。
そのあたりの心理的な描写がこの作品ではとてもリアルに描かれているんですね。

つまり前述したこの作品のなんとも言えない魅力とはこの部分にあるのかな、と思います。
そしてあくまで、ミステリ的な味付けで組み立てられた作品ではありますが、
著者が書きたかったことを、勝手に推測すると、
多くの人が持っていると思われる子供時代の解決することもなく、
そのままにしていた問題を物語としてデフォルメして書くことにより決着をつけたい、
そういう事だったんじゃないかな?と思います。
過去を振りかえってばかりというのも問題ですが、
過去を清算しなければ前に進めない、
そんな悲劇に出会ってしまった人間もいるのだろう、とも思えます。
2017/03/23 05:33

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感想投稿日 : 2017年7月4日
本棚登録日 : 2017年7月4日

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