みみずくは黄昏に飛びたつ

  • 新潮社 (2017年4月27日発売)
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本棚登録 : 1110
感想 : 119
4

誰でも10代の頃に憧れた
ヒーローとかヒロインっていますよね。
で、もしも大人になって、実際にその対象となる人物に
話を聞けるとしたら、どんな気持ちになるでしょうか?

今回ご紹介する本は、10代のころから村上春樹を
愛読していたという川上未映子さんという小説家が
計4回に渡って、春樹さんの自宅などを
舞台にインタビューした、という一冊です。

キャ~キャ~という感じのファン意識は
表面的には出ていません。
リスペクトを前提にしながらも
生物学者がようやく出会えた
希少動物の検体を解剖するように
村上春樹のテキスト自体を、そして書く手法を
さらに書くに当たっての心構えを、
同業者ならではの鋭いメス(視点)で切り込んでくれています。

そんな川上さんに対して
答える側である春樹さんも
真剣になおかつ「ここまでネタをばらしてくれるの??」
と思うくらいサービスたっぷりに答えてくれています。

川上さん自身が芥川賞を受賞するほどの作家ですから
話はかなり具体的な執筆ノウハウや
深い部分での書くにあたっての心構えみたいなものも
春樹さんは惜しげもなく披露してくれています。
例えばMacで使っているエディターの種類とか
執筆スケジュールの建て方とか・・・。

だけれども聞かれる側である春樹さんの
サービス精神のおかげもあるのでしょう。
難解な文学談義という雰囲気はありません。

おふたりの話はとてもわかりやすく
読む人誰もが、他の仕事や普段の生活にも
応用できそうに思えるくらいに普遍性を感じます。

しかしヒヤッとする場面もあります。
自称フェミニストだという
川上さんがハルキワールドでの
女性キャラクターの扱われ方について
ツッコミを入れている場面です。
春樹さんも結構答えにくそうにしているように思えます。
男である私ならサラサラと読み流してしまいがちな
そんな場面にもざっくりと切り込んでくれるあたりも面白いですね。

時期的には最新長編である【騎士団長殺し】を書く直前
それから書き終わった直後の計4回となります。
したがって【騎士団長殺し】に関する質問と答えが多いです。
正直申しますと【騎士団長殺し】は
私的には残念な作品という印象だったのですが、
このインタビューを読んで再読してみたくなりました。
少し印象が変わるかもしれませんね。

さて最初に書きましたとおり
10代の頃に憧れたヒーローやヒロインに
大人になって会って話をしたらどんな気持ちがするのか?

自分的には想像外の状況になりますが
川上未映子さんはこのインタビュー集という作品で
「憧れ」に対しての見事な決着法を示してくれているように思えます。

それは「憧れ」の対象と同じにならなくとも
同じ位置までいかなくとも、
自分なりの足場さえ作ってしまえば
「憧れ」と対等に話をすることができるということかな、と思えます。
それが「憧れ」との理想的な決着の付け方のひとつなのかもしれませんね。
2017/08/20 05:01

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感想投稿日 : 2017年8月20日
本棚登録日 : 2017年8月20日

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