文庫版 百器徒然袋 雨 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2005年9月15日発売)
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本棚登録 : 3810
感想 : 319
5

眉目秀麗、腕力最強にして、言動は破天荒で傍若無人。
調査も捜査も推理もしない探偵・榎木津礼二郎が大活躍する京極堂シリーズの中編集。
「鳴釜」「瓶長」「山颪」という2文字の妖怪の名をタイトルに、「骨董」「贋物」をテーマとして統一させている点、そして、文が途中でページを跨ぐことが決してないと云うところに意匠家でもある作者・京極夏彦の美意識が感じられる。

自らを“神”と称する榎さんを筆頭に、京極堂、益田君、待古庵、木場修、いさま屋、関口君ら薔薇十字団の一味が寄って集って巫山戯ているのが面白い。
収録されている3編いずれも榎さんが暴れまくって見事に事件を解決!(いや、破壊か?)
まさしく勧善、もとい「勧榎木津懲悪」小説。
最初は依頼者のはずであった“僕”(本島君)がいつの間にか榎さんのペースに嵌って下僕に成り下がっているのが痛快。

妖怪や神社仏閣に関する作者の知識量には毎回驚かされるが、本書ではそれに加えて書画骨董や料理、動物に至るまで、実に多彩な知識が披露されている。
しかも、作品の舞台となっている昭和27~28年当時に知り得た情報しか書けないという制約の中でそれを行っているのだから、これはもう本当に魂消ましたと云う感じだ。

「運命なんてモノは、そもそもない。いずれ行く末は決定されていないのだから。どうなろうと誰の所為でもない」
「法律と云うのも決まり事な訳ですからね、これは一種の呪術です。壺に値段をつけるのと変わりがない…犯罪も同じです。行為自体には意味はないんです…下手をすると無限に続き兼ねない自責の念を、懲役何年罰金幾価と云う目に見える形で纏めてくれると云う作用もあるんです。形なきものに形を与え、名前を与えて落とすと云う、これは憑物落としの作法です―」
常人には思いもつかないようなこういう持論を小説に書くには相当な技量が必要だと思う。

「君はいつかの何とか云う人!」
「僕が許すものが善で、僕が許さないものが悪だ。他に基準はない!」
「悪は滅びる。僕は栄える。それがこの宇宙の仕組みだろうに」
「お腹ぺこぺこのぺこちゃんだ!」
云っていることもやっていることも本当に滅茶苦茶な榎さん。
本島君を「磐梯山君」などと呼んだのには爆笑した。
今までに読んだいろんな小説の登場人物の中で、榎さんが一番好きだ(2番目は京極堂(中禅寺秋彦)、3番目は御行の又市)。

解説は、映画で榎木津礼二郎を演じた阿部寛さん。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2013年1月3日
読了日 : 2010年12月6日
本棚登録日 : 2013年1月3日

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