王都の二人組 (盗賊ロイス&ハドリアン)

  • 早川書房 (2012年3月31日発売)
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感想 : 23
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・マイケル・J・サリヴァン「王都の二人組」(ハヤカワ文庫FT)は 盗賊ロイス&ハドリアンのシリーズ第一作である。作者はこれを書くに当たつて、「キャラクターとドラマとユーモアが適度なバランスで配さ れたファンタジィを我が子に読ませてやりたい」(438頁「訳者あとがき」)と思ひ立つたのかどうか。しかし、確かにそんな作品ではあ る。あとがきの最初に「昨今のファンタジィって長いし重いし暗いし云々」(437頁)とある。確かにかういふのが多い。3巻ぐらいで終は れば付き合ひやうもあるのだが、いつ果てるともしれずに延々と物語が続いていくとなると、これはもうとてもつきあひきれない。こちらから 降りるしかない。「時の車輪」他はそれでやめた。作者は物語の登場人物をあちこち動かして楽しんでゐれば良い。読者はさうはいかない。い ささか寂しさを感じる時もあるが、いい加減にキリをつけてほしいと思ふ。このロイス&ハドリアンのシリーズがさうなるのかどうかは知らな いが、少なくとも重くも暗くもならないと思ふ。それゆゑに、もしかしたらいつまでも付き合い続けることができるかもしれないとも思ふ。た だしザンスのやうなのもある。軽くてユーモアありでも、いつまでも続くとやはり飽きが来る。さうならないといふ保証はどこにもない。
・そこでロイス&ハドリアン登場の「王都の二人組」である。物語をごく大雑把に言つてしまへば一種のお家騒動であらう。王が殺され、王子 とその姉姫も抹殺されかける。首謀者は……国元の悪家老ならぬ、王の補佐をする弟であつた。しかもその周りには教会と隣国がゐてといふ感 じの物語である。そこにこの盗賊二人が絡む。いや、王殺しの濡れ衣を着せられたために、関はらざるをえなくなつてしまつたのである。盗賊 とはいへヒーローである。ロイスは盗賊としての腕に優れ、ハドリアンは元軍人、すこぶる腕が立つ。中世城塞都市の住人らしき二人である。 歌舞伎のお家騒動物の殿様方の人物造形とはいささか違ふ。奴○○のやうないかにも正義の味方ではない。これに対する王の弟は、王子からす れば叔父であるが、初めこそおとなしくしてゐても、途中からその本性を表し、いかにも悪人といふ感じになる。この仲間もほぼ同様、善人面 はしてゐてもである。仁木弾正のやうな最初からいかにもといふ悪役はゐない。姉弟は成長途上、特に王子は成長著しい。歌舞伎とはいささか 違ふが、ファンタジーといふ点からすれば、これらの人物はそれらしい。これで良いのであらう。難しいことは言はない。重くない、暗くな い、である。極端なことを言へば、お家騒動が二人の盗賊によつて阻止されさへすれば良いのである。実際に物語はさうなつて終はる。めでた し、めでたしである。だから重くなく暗くないのではない。ポイントは二人の話しぶりである。いや、他の登場人物の話しぶりもおもしろい。 訳の問題もあらう。それを意識してさう訳しただけかもしれない。あとがきに「ルパン三世」や「刑事スタスキー&ハッチ」なるドラマに比さ れる(438頁)とあるからには、この二人、本来的にさういふキャラクターなのであらう。つまりはおもしろいのである。それがお家騒動を 八面六臂の活躍で解決していく。だから歌舞伎のやうに重くならない。個人的には、悪役の叔父が仁木弾正のやうになれないのが残念なとこ ろ、悪役が弱すぎるといふ感じもする。しかし盗賊ロイス&ハドリアンである。この二人が十分に活躍すればそれで良いのであらう。そんなわ けで第一巻はおもしろく読めた。この後の展開がどうなるか、それによつて読み続けるかどうかが決まる。この調子だけでは飽きが来る。新たな展開期待してゐよう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2012年5月20日
読了日 : -
本棚登録日 : 2012年5月20日

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