豊饒の海 第一巻 春の雪 (新潮文庫)

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『豊饒の海』は1巻「春の雪」2巻「奔馬」3巻「暁の寺」4巻「天人五衰」と、全4巻にも及ぶ大作です。
この話には主人公が二人います。一人が本多繁邦。唯一全4巻を通して登場し、一種の語り部としての役割を担います。もう一人の主人公が、この本多の親友である松枝清顕です。ただ、これは1巻においての名前です。これがこの話の肝なのですが、清顕は転生を繰り返し、2巻、3巻、4巻は別の人物として登場するのです。そして、その全ての生まれ変わりと本多は再会することになります。本多は転生に気づきますが、清顕本人はそれに気づいていません。

素晴らしいのは、いろいろな読み方ができることです。4巻を通して一つの話として読むのはもちろん、それぞれの巻で主人公やその性格が変わり、話全体の雰囲気もかなり変わるので単独作品としても読めます。いろいろな物語の要素が4巻分で楽しめるのです。ちなみにおおざっぱに一言で表すと、1巻は「恋愛」、2巻は「青春」、3巻は「官能」。そして4巻は一般的な言葉では言い表せず・・・しいて言うなら巻名の「天人五衰」でしょうか。
また、1巻は大正、2巻は戦前昭和、3巻は戦中~戦後60年代、4巻で70年代と、時代も移り変わります。このように長い期間を描いているので、登場人物の変遷を眺められるのも面白い点。2巻で清純に描かれていた人が、3巻ではとんでもない年のとり方をしていたり・・・。登場人物の数も多く、それぞれ細かく描かれるため、群像劇としても楽しめます。
あと、全体を通して鍵となる仏教思想については、軽くでもさらっておくことをおすすめします。

私が特に好きなのは3巻。3巻は「起承転結」の「転」にあたり、前2巻から大きく変わる巻です。この巻では、インドのベナレスが登場するのですが、そのシーンがとにかく素晴らしく・・・。読んだ後、実際に三島が取材旅行に行ってものすごい衝撃を受けたというのを知り、だから描写がずば抜けていたんだな~、と納得。4巻中、最も幻想的かつ退廃的なのも好みです。
3巻の「転」を経て、4巻で「結」にいたりますが、『豊饒の海』はラストがすごいです。読む前から「すごい」と聞いていて、心構えをしていたのですが、本当にすごかった。(語彙が貧困で申し訳ない・・・)私はこの終わり方はものすごく好きです。

『豊饒の海』は三島の最後の作品で、この話が彼自身に大きな影響を与えたとも言われていいます。ただ、こんな話を書いてしまった後、次に書ける小説といったら、それこそもう何もないのだと思いました。

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感想投稿日 : 2014年10月14日
本棚登録日 : 2014年10月14日

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