砂漠 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2010年6月29日発売)
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5

『砂漠』伊坂幸太郎  新潮文庫

こちらでご紹介があって、とても読みたくなり、息子の「伊坂幸太郎単行本コレクション」?に無かったこれを文庫で入手して、先に読みました。
結論。とても、とても良かったです。まだ伊坂作品6冊目と言う少なさですが、その中で、一番感情移入して読んだ作品の様な気がします。


入学した大学で出会った5人の男女。同じ学部の同級生である彼らの繋がりは麻雀の面子を揃える、それも名前に東西南北が入っているメンバー+一人、と言う変わった始まり。
その5人が、恋をしたり、友情を深めたり、事件に巻き込まれたり、と言う青春小説。
彼らは4年間の様々な共通体験を通して、成長し、互いの絆を深めて行く。

でも、良くある青春小説と違うのは、この仲間の一人、「西嶋」が体現して居る物が、読み手にグイグイ沁みてくる所だと思う。仲間内で、一際異彩を放つ西嶋。この空気が読めない、外見もキモヲタ風に書かれている彼。この西嶋の名言と迷言、突発的な行動に、仲間は呆れ、振り回されながら、彼の言う、「その気になればね、砂漠に雪を降らす事だって、余裕でできるんですよ。」と言う、根拠の無い自信に満ちた言葉の意味する所を、何となく理解して影響されて行く。

「人間とは、自分とは関係のない不幸な出来事に、くよくよすることですよ」と西嶋は言う。
くよくよして、諦めて、見ないふりをする人間が圧倒的に多い中で、西嶋は諦めない。自分の無力を誰より解っているのに。今出来る事を、グズグズ考えないで、本気でやる。自分のやり方で「砂漠に雪を降らそうとする」のである。出来るのに行動しない、如何にも小賢しい言い訳ばかり覚えて馬齢を重ねて来た自分を恥じ、傍観者でいる自分が情けなくなった。

果てしなく堂々と自分の主観に基づいて「奇跡」を起こそうともがくのは、若さ故なのかも知れ無いが、西嶋と仲間達は、仲間の窮地を奇跡を待つのでは無く、奇跡を起こそうとして必死になる。実際、大きな奇跡ではないが、彼らは小さな奇跡をこの物語の中で起こしていると私は思う。

この小説の中で「砂漠」とは、学生時代に終わりを告げ、踏み出して行く社会の事としても書かれているが、卒業に際しての最後の学長の言葉は、私の耳に痛かった。でも、もう一つの「人間にとって最大の贅沢とは、人間関係における贅沢の事である」には、深く頷いている自分がいた。

ユーモアとシリアスな出来事に彩られたこの小説、個性的な5人全員好きだけれど、やっぱり西嶋は、「西嶋語録」を作りたくなるぐらい最高だ。そして、そんな彼に恋した笑わぬ美女東堂さん、実は彼を上回るぐらい凄い人かも知れない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2015年5月8日
読了日 : 2015年5月8日
本棚登録日 : 2015年5月8日

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