びろうな話ですが。
トイレで、少しずつ読み進めていた本です。
著者の竹西さんは河出書房や筑摩書房で編集者をした後に文筆業に入り、小説や随筆で数々の賞を受賞。日本を代表する女性作家の一人。
とはいっても、いわゆるベストセラーとは縁がない人。しっかりとした日本語の文章を書く(というか伝統的な日本文学を守っている)人ということで、おそらく玄人(って表現も変か?)好みの作家です。
文章の端々に、日本語の規範に対する強い信念と、なんでもありの現代(といっても本書のもととなる週刊読売への連載は20年近く前ですが)の日本語への静かな怒りが感じられます。
たとえば、自分も気づいていなかったけれど、「こだわる」という表現について。
私の中ではいい意味ではほとんど用いられない言葉であったのに、この頃のこの言葉の活躍を見ていますと、「こだわり」が、いいことのように伝わってくる場合が少なくありません。
大したことでもないのに、とりたててあげつらう。わずかな欠点を見つけて難癖をつける。悪く言う。小事に執着して大観できないときとか、見方に柔軟性を失っているような場合に使う言葉と思ってきたのですが、そうではなく、研究熱心とか、愛着の深さを表す言葉として使われているようで戸惑ってしまいます。
(p171「臆病と果敢」)
今現在の日本語の環境の中で、「こだわる」をマイナスイメージで使う人はどれだけいるだろう。
おそらく、ほとんどいないのではないか。
雑誌やテレビ、ネットの言葉遣いの中では「こだわりの宿」とか「こだわりのスープ」など、ほとんどが肯定的なニュアンスでしか使われていないと思うのだ。
日本語ってすごいなあ。そう思う発見がたくさんの本だった。
古典を読むことで、言葉の感性が磨かれるという話や、茶の間に汚れてもいい辞典を置いて、気になった言葉はどんどん辞典を引くという友人のエピソードなど、さっそく自分も取り入れている。
ちょっと説経調な部分はあるけれど、ためになる1冊。
- 感想投稿日 : 2012年11月8日
- 読了日 : 2012年6月26日
- 本棚登録日 : 2012年6月26日
みんなの感想をみる