奇跡の生還を科学する 恐怖に負けない脳とこころ

  • 青土社 (2010年11月25日発売)
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感想 : 6
5

著者は様々な冒険旅行の記事を書いてきたジャーナリスト。

本書は、著者が冒険旅行の経験を通して徐々に恐怖に関して興味が募った結果、書かれた本との事。

冒頭のニール・ウィリアムズと言うイギリス人のパイロットの奇跡の生還のエピソードから始まり、

・著者が恐怖を調べる実験に被験者として参加したエピソード、
・恐怖に対する科学的調査の歴史、
・危険状態における集中力、
・パニック、
・ストレスと能力の関係を示したヤーキース・ドットソン曲線の解説、
・火事場の馬鹿力、
・過剰なストレスによる能力の低下、
・物理的な勇敢と社会的な勇敢、
・イップスと舞台恐怖と不安障害
・不安障害とその対処薬として多用されているβブロッカーの問題点
・CシステムとXシステムと言う概念を使ったマシュー・リーバーマンの意識モデル、
・恐怖の役割、
・パニックの役割

等が解説されていました。

その中で個人的に、

適度なストレスは人間の能力を拡大させるが、過剰なそれは逆に減退させると言う事が科学的に証明されていると言う事を示したヤーキス・ドットソン曲線の解説や、

火事場の馬鹿力がなぜ発揮されるのか、そしてその限界(絶対筋肉)の存在、

Xシステムと名付けられた扁桃核が盛んに発する危険信号をCシステムと名付けられた腹外側前頭前皮質が打ち消して冷静な状態を保つ事

などが興味深い内容でした。

それ以外にも、いざと言う時に恐怖に立ち向かえる様にする方法として、

・運動を日常的に行い、体の調子を整えておく
・不仲、金銭問題などで日常生活において余計なプレッシャーを感じない様にする

#筋トレしよう・・・・

と言う方法が紹介されていた他、

機体がまるで服の様に感じられるパイロットの例など、繰り返し反復練習を行うと意識的な行動(つまりCシステムの管轄)であった物が反射的な行動(Xシステムの管轄)に変わり、危険時にも発揮出来る能力となると言う解説もあり、名人芸レベルになるとやはり違うのだなあと思いました。

#冒頭のイギリス人パイロットは名人芸レベルの操縦技術の持ち主だったのでしょうね。


何かあると「冷静になれ、パニックになるな」とはよく言われる事です。

本書ではこのパニックの原因を、Xシステムの暴走をCシステムが押さえきれない事が原因としているのですが、だからと言ってCシステム優位な頭の構造になると問題も生じるとの事。


その問題とは、危険を危険と感じられなくなる事。

危険を感じられなくなった結果、過剰なリスクを取り死に至るケースも紹介されており、実は本書の最後の方で冒頭のイギリス人パイロットのニール・ウィリアムズがその実例としてあげられていました。


どうやら著者の結論は、

人間は恐怖と隣り合わせの中で進化してきており、最早その体は恐怖の存在に適応しているので、恐怖自体を感じない、あるいは恐怖を引き起こす出来事自体が無くなれば心身のバランスを崩してしまう

なので恐怖を過剰に避けるのではなく、それとうまく付き合う方法を見つけるべきだ

と言う物みたいです。

#そう言われると、安全性を追求した現代社会において色々と人間の精神のバランスが崩れている点もある様な?


いずれにせよ、本書の中では奇跡の生還を果たした後、価値観が変わり、人前でのスピーチなど今まで不安で仕方がなかった事にきちんと対処できるようになったエピソードも書かれており、(決して死の危険にさらされる事を奨励している訳ではありませんが)恐怖にも良い結果を出す側面も存在しているのだと気づかされます。


本書は恐怖に関する豊富なエピソードが紹介されており、解説文も流れる様な感じで読みやすい本ですが、気になると言えば以下の一点。

エピソード紹介の途中で解説が始まり、しかもその解説が少し長かったりするので、エピソードに戻った時にどの様なエピソードだったかと戸惑った事があったと言う事でしょうか。

とは言え、エピソードと解説の間はスムーズに切り替わっており(繰り返しになりますが)とても読みやすい感じです。

普段余り読書をしない方でも、人間の恐怖の存在に興味を感じるのであれば、様々な恐怖にまつわるエピソードが紹介されていると言う事もあり、最後まで興味深く読み進められるのではないでしょうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2011年9月20日
読了日 : 2011年9月20日
本棚登録日 : 2011年9月20日

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