保育園を呼ぶ声が聞こえる

  • 太田出版 (2017年6月20日発売)
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 NHKクローズアップ現代『子どもの命が危ない ~保育園が非常事態~』http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3790/ などにご出演のジャーナリストの猪熊弘子さんが、『子どもたちの階級闘争』などで注目されているブレイディ みかこさん、『民主主義を直感するために』などで知られる哲学者の國分功一郎さんと対談した時の様子がおさめられた本です。
 私は元々保育所というものに懐疑的ではありませんでした。でも娘を預けてはじめて、大変なことが保育の現場で起きているのだと感じ、日本の保育の問題に目を向けるようになりました。どうして保育士さんはいつもせかせかしていて、怒りっぽくて、精神不安定なのか。小学校の先生は小学校に子どもを託す親のことを出来損ないの親と見なし、問題視したりはしません。小学校に通えるのは子どもにとって幸せなのだ、という信念を持っていて、だからこそ保護者は安心して子どもを小学校に通わせられています。ところが保育所の場合、保育士さんが保育というものの社会的意義に懐疑的な場合も多く、働く親はきちんと保育しない人と考えている保育士もいるのではないでしょうか。働く親を支えることは子どもを支えることでもあるという理念が定着していないように思えます。今上映中の『いのちのはじまり』という映画でも、シングルマザーの女性が保育士から、お子さんがお母さんを恋しがっています、と言われたことから、昼間働くのをやめて、子どもの世話を自分でし、夜中働く過酷な生活をはじめた、と語るシーンが出て来るのですが、福祉やケアというものの理念をきちんと理解、学んでいない保育士が日本にも多いのではないでしょうか。
 今、待機児童解消について活発に議論されていますが、本書に書かれている通り、経済面ばかりに重きが置かれ、子どもの幸せや生活環境が議論の中心に据えられていないような気がします。ブレイディさんとの前半の対談では、保育士一人がみる子どもの数がイギリスと比べ多すぎること、日本では保育士資格取得の際、多様性についてあまり学ばないこと、また最近の保育は母親の就労支援の側面が強くなって、子どもの福祉という本来の理念が薄れてきてしまっていること、保育士が働きながら専門性を高めていき、それが給与に反映される仕組みができていないこと、くるみん、プラチナくるみんなどの認証マークが当てにならないことなどが分かりました。また「どうしたら日本の状況はよくなるのか」と聞かれたスウェーデンの研究者が「そもそも月六十時間残業しているっていう社会が理解できないので、どうしたらいいか分からない」と答えたというところも、印象的でした。
 後半の國分さんとの対談では、おかしいと思ったことは声をあげていいんだ、ということなどが書かれていました。保育所にあずけている時は、とにかく感謝しなくてはいけない、不満を持ってはいけないと自分の気持ちを押し殺してきたので、その言葉に救われました。この本に書かれている通り、保護者は保育所を利用する期間が限られているので、卒所してしまうと保育所問題への関心が薄れてしまいます。でも例えば保育士さんの低賃金に反対することは、将来、自分の子どもが大人になって子育てしながら働くようになった時に、自分と同じように苦しまなくて済むことに繋がるのだと考え、関心を持ち続けることが大事なのだと思いました。確か私が保育所に娘を通わせている時、役員が代表して市に保護者からの要望を出せました。そこで私は保育士の賃金アップを求めてはどうかと提案したのですが、他のママ達から、却下された経験があります。自分達には関係ないと思ったようでした。でも本当はこのような対市交渉の場で保護者が声をあげていくことが有効だと思いますし、福田萌さんがブログで書いていた通り、保育士さんの給与アップが問題解決の糸口となるのではないでしょうか。https://ameblo.jp/fukuda-moe/entry-12267627474.html 実際その時出した要望(門の前の道路の安全確保)は通りました。
 『職場の問題地図』など職場の労働環境改善に関心がある人にもぜひこの本を読んで欲しいです。
 働くママの割合が社会全体でまだまだ少ないので、政治家が働くママへの施策を公約に掲げてもなかなか票につながりにくいかもしれません。どうしたら働くママ以外の人たちがこの問題に関心を持ってくれるのか……。新聞などで子育て、保育所の問題が多く扱われるようになってきていますが、その陰には女性ジャーナリストの方達の活躍があるように思えます。私はジャーナリストではありませんが、素晴らしい記事、作品はSNSなどでシェアしたり他の人に薦めたりして、微力ながら認知を広めるために何かできたらと感じました。
 個人的には、保育所以外の保育の可能性についてももっと知りたいです。(ファミリーサポートを今使っていますが、とても素晴らしい制度です。ただ支援員の方に自治体からの金銭的助成がないので、安い賃金で半分ボランティアのような形でお願いしなくてはならないことを心苦しく思っています。とはいえ、今以上の額支払うのは難しいのが現状です)保育ママ制度もうちの自治体はなくなってしまいました。ファミリーサポートは、1対1で保育してもらえますし、ママが働きながら子どもの成長を感じ、支援員の方から子育てについて学ぶこともできるのでとても優れた制度だと思います。なぜ日本で広がらないのか、とても不思議ですし、ファミリーサポートの実際についての記事も保育所問題程見かけないので、ぜひジャーナリストの方達には記事にしてほしいです。
 この本では長いスパンでの変革が論じられているので、今小さい子どもがいて子どもを保育所に預けたい/預けている人は読んで不安になったり辛くなったりしてしまうかもしれません。この本と併せて『みんなの保育の日 2017 ~子どもは社会で育てよう』の動画や ~https://www.youtube.com/channel/UCLw-C4SkzfLQTgyedECTatQ 映画『いのちのはじまり』http://reikohidani.net/3569/ を観ると、ほっとできて、励まされると思います。でも今回の本のような問題提起も大事です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年6月29日
読了日 : 2017年6月29日
本棚登録日 : 2017年6月29日

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