中井久夫が1983年に書いた、精神分析についての新しい視角を提示した一冊。
普遍症候群——文化依存症候群——個人症候群という三つの類型が複層的に現れたものとして精神障害を捉え、あらゆる臨床的事例や先行研究をちりばめつつ考察を進めていく。必ずしも論文形式ではなく、しかしただの書き下ろしというわけでもないスタイルで書かれている。
アラカルト的な構成でもあるので、いろんな読み方があり得るとはあとがきにもある。一点ばかり、他の人があまり注目していないであろう点を挙げれば、普遍症候群対個人症候群を医学的認識について相似させている。前者はコッホの三原則的「定義方式」と、後者は臨床経験を蓄積し、共通点と相違点を見出しつつ個別事例に対応していく通時的クラスター分析方式とでもいうべき方法とである。これは医学全般に当てはめうる医療的発想であり、特に精神障害が普遍的な病因と治療という定石に当てはまるものではないということは重要な点である。
今日の精神医学がどのような次元にあるのかは知らないが、東京のみならず日本中が熱病にかかっているような今日にあっては、われわれ個々人をどのように捉えるべきかという示唆まで含んでいるような、広いパースペクティブを持った本である。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2012年9月26日
- 読了日 : 2012年9月26日
- 本棚登録日 : 2012年9月26日
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