私が源氏物語を書いたわけ 紫式部ひとり語り

著者 :
  • 角川学芸出版 (2011年10月21日発売)
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本棚登録 : 91
感想 : 28
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源氏物語を書いた紫式部の人生が、式部自身の一人称で紡がれていく、小説と自叙伝の間のような作品です。

藤原氏なのに不遇な地位にいる一族のこと、屈折したプライドと諦め、親しい人たちを喪う度に襲われる哀しみと無常観、一人娘への無心の愛、宮仕えのつらさと立ち回り方など、彼女を取り巻いていた多くの現実が、紫式部日記や歌集などの豊富な資料を巧みに織り交ぜながらも、理知的で抑揚を抑えた彼女自身の声で語られて行きます。

大学の先生による著作のためか、自然な気持ちの吐露、というよりも、少々理屈的で、硬い言い回しの部分もありますが、内気なのに実は尊大で誇り高い、アンバランスな部分もある感性鋭い女性の姿が丁寧にあますことなく描かれています。

ですが、この作品で何よりハッとさせられたのは、主となった中宮・彰子の秘められた苦悩と、それに耐えながらも健気に努力し、毅然とした女性へと変貌していく姿を、強い敬意と愛情で、描いている点です。
この部分は、源氏物語と紫式部の第一研究者と言われる著者だからこそ知り、書けた部分だなあ、としみじみ感じいってしまいました。彰子以外にも、幸せそうに見えて実は深い苦しみと悲しみを抱えながらも必死に生きている女性がこの物語には多く登場します。

源氏物語が好きな人もそうでない人も、感性の鋭い女性による見事な捉え方には、どこかにハッとさせられ、学ぶ部分があるのではないでしょうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 古典
感想投稿日 : 2013年3月2日
読了日 : 2013年3月2日
本棚登録日 : 2013年3月2日

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