年上の同性キャロルとの出逢いと経験を機に、「サナギが蝶になる」という言葉そのままに、不安や迷いで停滞しているあどけなさが残る姿から、自我を持つ成熟した女性へと変貌をとげていくテレーズを演じきったルーニー・マラの演技が見事です。
完璧なようで脆く、蠱惑的に美しい大人の女性キャロルを演じたケイト・ブランシェットももちろん素晴らしかったです。
広報等ではLGBTの面が強調されていましたが、各シーンを脳内で再生して、見方や考え方、映像が与える印象の受け取り方を少しずつ変えるだけで、全く違う意味を持つ、シンボリックな作りになっている点も見事です。
例えば、ただストレートに、1950年代のLGBTへの社会的扱いを取り上げた物語とも、自分を従属物とみなしている男性や規範から離れることを選んだ女性たちの自我の目覚めと自立の物語ともとれます。
けれど、ところどころ緩慢で印象的なカメラワークや被写体を明確に捉えないシーン、登場人物たちの振る舞いや視線、何気なく漏らされる、脈絡や辻褄の繋がらないいくつかの会話などから、明確に描かれていないそれぞれの心理を想像してつないでいくと、世間知らずの女の子が百戦錬磨の孤独な女王さまに意図的に絡めとられて道連れにされる、ある種の怖い物語だったようにも思えてきます。
そしてまた、他のシーンをクローズアップすれば、もっと別な物語像になってきます。妄想膨らましすぎかもしれませんが…。
彼女たちを待ち受ける未来が明るいのか暗いのか、想像のできないラストシーンのせいでしょうか…。
でも、ここまで邪推しなくても、カラフルなはずなのに常に薄闇がかかったような陰影のある映像や、レトロで可愛いファッションや小物、音楽など、素直に十分楽しめる映画です。
特に、マラが着ていたジャンバースカートやコートがすごく可愛くて、同じものが入るならすぐ買う!ってほど興奮しました。
- 感想投稿日 : 2016年8月12日
- 読了日 : 2016年8月12日
- 本棚登録日 : 2016年8月12日
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