思想界において一時代を築いたサルトルを長年読みつづけてきた著者が、サルトルのヒューマニズムの思想の意義を力強く肯定している本です。
本書の前半では、サルトルの哲学的著作や小説、戯曲が、人間の自由という観点から読みほどかれています。定型的なサルトル解釈でありながら、サルトルのあげる例や具体例にそって人間の自由の具体的なかたちを描き出していく著者の行論は、通俗的な解釈の図式を当てはめただけという感じを抱かせません。「各人をそれぞれのアンガジュマンへと送り返す」サルトルの志向を自家薬籠中のものとしている著者ならではの仕事ではないでしょうか。
構造主義以後、アンチ・ヒューマニズムが思想界の主流となり、サルトルのヒューマニズムはもはや時代遅れのものとみなされることが多くなっています。著者はそうした風潮に抗って、「現代において倫理は不可欠であると同時に不可能である」と述べたサルトルの希望を、高く評価しています。このような著者の描くサルトル像は、最後の知識人と呼ばれるにふさわしいヒロイズムを感じさせますが、けっきょくのところどれほど有効な倫理思想を彼の仕事から引き出すことができるのかという疑問に答えが示されているようには思えないのも事実です。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
哲学・思想
- 感想投稿日 : 2016年1月3日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2016年1月3日
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