主人公の小笠原真奈と、彼女を守るために行動する秋庭高範、徹頭徹尾自分のために動く入江といったキャラクターが登場します。そして著者は、「思うところも目指すところもばらばらの人たちですが、いっしょくたにして混ぜたら、何の拍子かこんな結末が出ちゃった。みたいなことがあってもいいと思います」と書いています。
真奈は「秋庭二尉まっすぐ」で「それしか見ていない」少女です。しかし彼女は、そんな自分の姿に苦しみます。「こんな世界になっても、きれいで優しいものしか見たくない。汚くて狡くて身勝手なことがよそでどんなに横行しても、自分が見る部分さえきれいに整っていたらそれでいい」と述べて、自分の願望と、刑務所から逃げ出してきたトモヤの身勝手な欲望と一体どこが違うのかと自問します。
世界が変わったことがきっかけで、自分の見たいものしか「見ない」身勝手さを思い知らされたのは彼女だけではありません。秋庭もまた、自分より小さな真奈を先に死なせてはならないと思うことで、自分が逆に守られていたことに気づきます。また、野坂由美も、塩害の感染を恐れて真奈を実験室に残して逃げ出してしまった自分の弱さに絶望します。そんな彼女に、夫の正は「自分だけかわいい奴は、そんなふうに泣かないんだよ。置き去りにしてごめんとか、泣かないんだよ」と語りかけます。
自分の見たいものしか見ようとしない、そんな身勝手さを顧みることが、真奈や秋庭や野坂と、自分の醜さを見ない相談員の中年女性のような人たちを分けているものなのだと思いました。最初は不自然に感じた、結晶を「見る」ことで塩害に感染するという設定は、もしかするとこうした主題のメタファーになっているのかもしれません。
「塩の街、その後」は、真奈と秋庭、入江たちのその後や、野坂由美と正の出会いを描いた短編を収めています。
- 感想投稿日 : 2016年11月20日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2016年11月20日
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