要するに (河出文庫 や 20-2)

著者 :
  • 河出書房新社 (2008年2月4日発売)
3.32
  • (7)
  • (18)
  • (30)
  • (11)
  • (0)
本棚登録 : 214
感想 : 21
3

以前、呉智英の文章で、なぜ吉本隆明は論争に強いのかを論じたものを読んだことがあります。吉本は、花田清輝を始めとする大物に論争を挑み、勝利してきました。この理由について呉は、吉本がマルクス主義の教義の外に立っていたことが、彼の強さの理由だと論じています。

本書の著者である山形浩生の「強さ」にも、同じような理由があるように思います。学者や評論家の多くは、ナショナリズムや市場主義、ネット社会といったテーマについて論じていますが、彼らはいつも、そうしたテーマについての「思想」を語っています。しかし著者は、「思想」を語るのではなく、「思想」がその上で実現されるはずの「インフラ」について語っており、そこに著者の、他の学者や評論家たちに対する「強さ」の理由があるのではないでしょうか。

「反・反共」の立場を標榜していた丸山眞男の時評は、戦略的な言説として読まれる必要があります。同じような例として、近年では仲正昌樹の名前をあげることができるかもしれません。仲正のスタンスは「保守」ではなく、「反・反ネオリベ」と呼ぶべきものです。著者の戦略について考え始めると、仲正と同じような「反・反ネオリベ」的な言説に見えてくることもあります。しかし、やはり著者の言説は、「思想」的なレヴェルでの戦略として読まれるべきではないのでしょう。そうした「思想」的な考慮を働かせる暇があるんだったら、とっとと制度設計に取りかかるべきだというのが、おそらく著者のスタンスなのだと思います。仲正の本は「思想」の解毒に効果がありますが、著者の本はそこからさらに一歩踏み出して、読者を実践へと促すような効果があると言えそうです。

そうした意味では、本書は「啓蒙的」ないし「啓発的」な著作として理解できるように思います。もっとも個人的には、それこそ「ないものねだり」とは知りながらも、やはり「思想」的なもの足りなさを感じてしまいます。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 学問・読書・知的生産
感想投稿日 : 2014年8月17日
読了日 : -
本棚登録日 : 2014年8月17日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする