黒船の世紀―ガイアツと日米未来戦記 (文春文庫) (文春文庫 い 17-7)

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  • Amazon.co.jp ・本 (537ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167431075

感想・レビュー・書評

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  • 戦争に対する世の中の動き全体がもう少し幅広く判ればもっと面白いかな…

  • 日露戦争の後、日米間で将来戦争がおこなわれるという予測が広まり、両国で多くの未来戦記が登場しました。本書は、これらの未来戦記とそれを受け入れた人びとの姿を明らかにしながら、両国民の相互不信と疑心暗鬼が戦争への道を準備した経緯をていねいに検証しています。

    日露戦争以後のアメリカでは、西海岸を中心に日系移民に対する疑心暗鬼が高まります。こうした背景のもと、ホーマー・リーの『無知の勇気』が出版され、近い将来日本とアメリカの間で戦争がおこなわれるという見方が広まります。これに対して日本でも、アメリカとの戦争によって日本が没落するというシナリオの『次の一戦』が出版されました。アメリカにおける日系移民排斥運動の高まりは、日本国民にアメリカの「外圧」に対する反発を惹き起こし、勇ましい日米未来戦記が次々と刊行されます。漱石門下の赤木桁平は、ライヴァル芥川龍之介の遺書に記された「不安」が日本に蔓延し、国民の気概がうしなわれることを慨嘆しつつ、それを乗り越えて日本がアメリカに勝利すると予言した『米国恐るるに足らず』を、池崎忠孝の名前で刊行します。

    そのほかにも、猪瀬氏は多くの日米未来戦記を参照し、太平洋戦争に至るまでの国民の心理を浮き彫りにしています。こうした心理について著者は次のように説明しています。「戦争は仕掛けなければ、仕掛けられるのだ。日本人はそういう強迫観念を生きてきたのである。日米未来戦記と名付けられたシミュレーション小説は〈外圧〉をはかる敏感な震度計で、その目盛りの揺れ具合はつねに関心の的となった」。「軍人が国民を引きずったのも事実だが、世論のほうも軍人の思惑を越えて戦争を呼び込んでいたのである。日米未来戦記は、軍人と世論、この両者のきわどい境界に位置して探知機と拡声器の役割を負っていたともいえる」。

    本書は、日米未来戦記の諸書を訪ね歩く実証的な検証作業を通して、日米両国の相互不信が深まっていくプロセスを、実証的に解明しています。

  • 戦争へと向かう空気が横溢していく様を日米両国で盛んに出版された未来戦記を通して描く。未来戦記の内容とともに各人各様の執筆動機まで掘り下げる。
    さまざまな要因が混在する大きな歴史の流れの中で戦争があり、
    軍部に引きずられたんだというような、GHQのシナリオ通りの見方がいかに一面的なものであるのかが示されているようだ。

  • ペリー来航から太平洋戦争に至るまでの歴史を、当時流行していた日米未来戦記という視点から論じている本書は、とても興味深かった。
    通常、歴史とは偏見的に語られることが多い。なぜなら、否応なしに語り部の国民性が出てくるからだ。しかしながら、本書はそれを「日米の著者」という視点を盛り込むことによって、うまく中立なポジションから論じている。

  • 近代日本は、戦争に明け暮れたらしい。
    戦争は仕掛けなければ、仕掛けられるものだったらしい。
    戦争とは、今でもそういうものなのだろうか。

  • 架空戦記に興味のある人は必読.

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著者プロフィール

猪瀬直樹
一九四六年長野県生まれ。作家。八七年『ミカドの肖像』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。九六年『日本国の研究』で文藝春秋読者賞受賞。東京大学客員教授、東京工業大学特任教授を歴任。二〇〇二年、小泉首相より道路公団民営化委員に任命される。〇七年、東京都副知事に任命される。一二年、東京都知事に就任。一三年、辞任。一五年、大阪府・市特別顧問就任。主な著書に『天皇の影法師』『昭和16年夏の敗戦』『黒船の世紀』『ペルソナ 三島由紀夫伝』『ピカレスク 太宰治伝』のほか、『日本の近代 猪瀬直樹著作集』(全一二巻、電子版全一六巻)がある。近著に『日本国・不安の研究』『昭和23年冬の暗号』など。二〇二二年から参議院議員。

「2023年 『太陽の男 石原慎太郎伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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