玩具修理者 (角川ホラー文庫) [Kindle]

著者 :
  • KADOKAWA
3.62
  • (24)
  • (30)
  • (29)
  • (15)
  • (1)
本棚登録 : 368
感想 : 36
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (178ページ)

作品紹介・あらすじ

玩具修理者は何でも直してくれる。独楽でも、凧でも、ラジコンカーでも…死んだ猫だって。壊れたものを一旦すべてバラバラにして、一瞬の掛け声とともに。ある日、私は弟を過って死なせてしまう。親に知られぬうちにどうにかしなければ。私は弟を玩具修理者の所へ持って行く…。現実なのか妄想なのか、生きているのか死んでいるのか-その狭間に奇妙な世界を紡ぎ上げ、全選考委員の圧倒的支持を得た第2回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作品。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「玩具修理者」
    読んでみて思い出したが、この話の梗概みたいなものをどこかで目にしたことがあると思う。
    それはおぼろな記憶で結末までは覚えていなかった。ただ「ようぐそうとほうとふと呼ばれるおもちゃを修理する人物がいる」というところだけが記憶にあった。

    クトゥルフ神話の世界に親しんでいる今、改めてようぐそうとほうとふと読んでヨグ=ソトースか…と閃く。
    続いてクトゥルーやニャルラトテップのような聞き覚えのある邪神の名前が並んだので完全にそれだ!となった。

    弟の道雄を死なせてしまった少女と猫を死なせてしまった少女の問答シーンでは、猫を死なせた少女が折々話の腰の骨を折るような鋭いツッコミを入れてきて笑ってしまった。
    彼女は道雄やその姉の死んでいる、あるいは大怪我をしているのを理由とした容貌の変化によく気付いて言及してくる。
    その割には道雄が死んでしまっていることを悟ることはない。
    笑ってしまったけれど、これは構成からして、のちに道雄の姉が生物と無生物の違いなんてないと語ってくることに繋がっているんだろうなと思う。
    猫を死なせた少女も道雄の姉も、本来生物と定義されているものを元の通りに直せるという感覚である以上、生死などに境界はなく、些末なものと認識しているのだろう。
    この話は生死というデリケートな内容が含まれるために隠しておきたかったというものではなく、信じないだろうから話さなかっただけというのが恐ろしすぎる。本当にこの姉の方の感覚が狂っていて怖い。

    全体を通して伏線の回収が鮮やかでホラーなのにすっきり感が味わえた。
    特に猫の瞳の回収は見事で、
    夜に近くで顔を見る機会のある男女とあったので安直に恋人関係かとミスリードして読み進めると最後でまさかのどんでん返し…。

    道雄が姉の話を否定しようとなんども口を挟んだことも頷ける。
    自分の身にあった信じがたいことを淡々と語られ、また思考の逃げ場を封じられることは恐ろしいな。

    「酔歩する男」
    この話めちゃめちゃ怖い。暴れちゃう。

    話が難しいところ(タイムトラベルの理論的な話題など)はどういうことだ…?と必死に読み返しつつ読み進めた。
    設定も展開も面白くて引き込まれて早く先を読みたくて焦れた…。

    この話の怖さはクリーチャーが出てくるとか神の教えに反していて冒涜的で怖い!というところではない。因果律の存在を脳の安全装置とかいう機能として解釈してくるので、認識の根幹を揺るがしてくる。そういう怖さだった。
    実際に自分に当てはめて想像できて、もしこれが現実だったら嫌だな。いや、嫌では済まされない…という感覚で、読みながら何度も鳥肌を立てていた。
    怖い反面、時間への解釈と展開は非常に見応えがあった。

    「玩具修理者」でもそうだったが、のっけから伏線を仕込んでくるから全然油断できない。小林氏の作品を読むのは初めてだが毎回油断できない構成を持ってくるのだろうか?「酔歩する男」でもまた唸らされた。
    物事をぼんやりと認識することは因果律など存在せず、観測された時点で波動関数が収束してしまうことに気がつかないようにと自分を守る行為だったなんて誰が想像するのだろう。

    好きな設定がいろいろあるのだが、特に脳の一部が機能を失っても大脳がその機能を補完するという設定がすごい。
    ただし、起きている時しかその補完が機能しないので、眠ってしまうとその前後の日の連続性がなくなってしまうし、起きている時の連続性は保たれるんだな。
    粒子線癌治療装置から出たときに何の変化もなかったことにうまく説明がつけられているように思う。

    そういえば、「狂気の山脈にて」を見に行くのか!?デートで!!?
    とクスッと笑えるクトゥルフ神話ネタシーンがあったのだが、私は粒子線癌治療装置のくだり辺りからアザトースを想起していた。
    全ての常識を持たない赤ん坊同然の白痴の、とりとめもなく連続性をも持たない混沌の夢の世界に我々の世界が存在しており、その世界をありのままに認識してしまえばそれと異なる常識を持つものは狂ってしまう。
    そんな世界でも正気を保つために、因果律だとか連続性だとか、「本当は実在なんてありもしないような常識」を常識として認識することに最適化した脳の機能が存在する…と考えると非常に面白い。
    タイムトラベルは能力ではなくこの能力の欠如。元来この世界で生きる以上我々はみなタイムトラベラになる素質を持っているのだ。
    でもこんな気が狂うタイムトラベルしたくないな……。死ねないし……。

    手児奈…結局…お前は神話なのか?
    まだ彼女については考えがまとまらないので言及を避けておく。

  • めちゃめちゃオモロい。

    ハンターハンターのピトーの能力名の元ネタと思って読見ました。

    玩具修理者はタイトルから漂う無機質な感じ、作中で語られる生物と無生物の境界線が曖昧にされていく感じが絡み合って。自分が熱を持つ生物なのか、唯の複雑過ぎる機械なのか不安にさせられる。
    人間機械論に通じるマッドな不気味さと汗と汁と血とで湿った描写がたまらない!

    姉が夏なのに温かい飲み物を飲んでいたのはお腹に熱を持たない部品が使われたからかな?
    少なくとも舌は猫のものでは無いだろう。


    酔歩する男は本当に絶望。「5億年ボタン」とか「SIREN」、「八尾比丘尼伝説」みたいな本当に嫌な地獄。
    経時的に状況が悪くなるのはすごい考察に思う。人生を何度でもやり直せるなら人は堕落していくだけなのだろう。
    しかも周りの人の記憶が自分の記憶と一致してないかもしれないって、すごい怖い。
    あと、今の意識を持って胎児になるってのも確かに地獄!

    新鮮な視点の地獄ばかり!最高のホラー!

  • 内容が難しくて頭に上手い具合に入ってこなった。玩具修理屋の方はわかりやすいのに、酔歩する男に関しては訳が分からなくなってしまった。物理が全くわからないとよくわからない。とりあえず読み終わったが、なんとか読み終わったという感じだった。

  • 超短編の表題作より、もう一作の「酔歩する男」の方が引き込まれた。ただしどちらも、期待したホラー感はない。

  • 昔角川ホラー文庫は結構読んでいたが、その中でも多分読んだことなかったと思われる1冊。『玩具修理者』と『酔歩する男』。『玩具修理者』はなんとなく作品紹介から推測できてしまったが、『酔歩する男』は全然タイトルから予想していた内容と違っていて良かった。

    奇妙な世界観と幾つかの伏線、久々にこういう話を読んだがやはり結構好きだと改めて認識した。

  • 2023.5.13
    夫との会話の中で話題になったので、まずは酔歩する男を読み終えた。
    面白いのと怖いのと。読んだことのないタイプの時間SFで新鮮。

  • 現実と空想の境界をぼやけさせる本。

    あまりこういった種類の本を読んだことがなかったので、読むにつれて引き込まれてあっという間に読めてしまった。

  • 「玩具修理者」(小林 泰三)を読んだ。
    いつ購入したのかまったく覚えてない。
    「玩具修理者」と「酔歩する男」の二篇収録。
    表題作はラストで『おっと、そうきたか!』と心の中で拍手。
    二篇目の方はなかなかの力作。
    ではあるが、正直に言うと『手児奈』が何者だったのかがよくわからないのだよ。

  • 「玩具修理者」姉が意味不明な事を語りだした件。暑さとケガでドロドロになっていく所が一番キツイ。

    「酔歩する男」狂気から到達するタイムトラベル理論。

  • 書き出し
    彼女は昼間いつもサングラスをかけていた。「玩具修理者」
    誰もが経験することかどうかはわからないが、わたしは絶対にあるはずの場所にどうしても行けないことがよくある。「酔歩する男」
       ◇◆◇◆◇◆◇
    和風クトゥルフ神話。
    世界がひっくり返る怖さを体験したい方へ。

    「玩具修理者」、生物と無生物の境い目
    「酔歩する男」、人間の時間認識

    どちらも定番の哲学問題から出発し、SF風味に味付けし、極上のホラーに仕上げた作品。
    クトゥルフ神話をベースにしながらも、日本人にしか描けない、新しい神話世界を構築している。
    井上雅彦の解説にあるように、これは新たな神話だ。

全36件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1962年京都府生まれ。大阪大学大学院修了。95年「玩具修理者」で第2回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞し、デビュー。98年「海を見る人」で第10回SFマガジン読者賞国内部門、2014年『アリス殺し』で啓文堂文芸書大賞受賞。その他、『大きな森の小さな密室』『密室・殺人』『肉食屋敷』『ウルトラマンF』『失われた過去と未来の犯罪』『人外サーカス』など著書多数。

「2023年 『人獣細工』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小林泰三の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
遠藤 周作
宮部みゆき
伊藤 計劃
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×