昨年の東日本大震災に関連して生じたいろいろな事象をアーカイブする取り組みは各方面で行われていますが、「災害エスノグラフィー」もその一つです。
この本では、阪神・淡路大震災において救護活動等に携わった人々を中心に、インタビュー形式で取材を行い証言をとっています。これらのインタビューは、都市防災などを専門にしている工学系研究者による研究がベースとなっています。
「工学系」と聞くと、数値シミュレーションや統計解析、実験などをやっている人たちというイメージが強いですが、彼らは、民俗学や心理学、社会学をベースにして研究を進めています。筆者らは、様々な数値データをマクロ的に解析、考察を行うような研究をしていたけれども、マクロ的視点ではどうしても抽出できないような大切なデータというのもあるのではないかという問題意識から、インタビューを基とした「質的研究」を行うようになったそうです。本書の本質からは逸れますが、理系・文系のくくりなんて、無くなっている分野もあるという視点から読むのもおもしろいかと思います。
また、収められている証言データは、非常にショッキングなものが多数収録されています。「災害エスノグラフィー」の目的の一部に、”読んだ人たちが、災害を疑似体験し防災の意識を高める”というものがあります。今後、東南海地震や首都直下地震などが危惧される中、このような体験談を読んでおくことは、多少なりとも自分の身に危機が迫った時の役に立つかと思います。
「災害エスノグラフィー」の研究手法を学びたい人にとっても、入門書としてお勧めします。
(2012ラーニング・アドバイザー/シス情SATO)
▼筑波大学附属図書館の所蔵情報はこちら
http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=1431625&lang=ja&charset=utf8
- 感想投稿日 : 2012年11月21日
- 読了日 : 2012年11月21日
- 本棚登録日 : 2012年11月21日
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