最終の新幹線で帰る恋人をホームで見送る
昔懐かしい遠距離恋愛の物語より、なんだかよっぽどきゅんきゅんするような。
デビュー作の『青空の卵』シリーズの坂木と鳥井といい、
このハチさん便シリーズの大和と進といい、
坂木司さんは、男女間以外の片想いを描かせると抜群に上手いのです。
といっても、めくるめくBLの世界とかではなくて
『青空の卵』では友人同士、この本ではまだ親子歴数か月の父親と息子なのだけれど。
お互いに相手のことを、これ以上ないくらい深く深く思い遣っている。
読者からすると、「あなた達、立派に両想いなのにどうして気づかないの?!」
とやきもきしてしまうほどに。
なのに、想いが大きすぎて、閉じ込めようとした挙句ぶっきら棒に振舞ってしまったり
自分は相手の重荷になっている、きっといつかは離れていってしまう、と悩んだり。
ハチさん便のドライバーとして働く今も、元ホストの条件反射がたまに出て
お客様に片膝立てて名刺を捧げてしまう、単純だけど気のいい大和。
一緒に過ごした短い夏休みの思い出を宝物のように抱きしめて
冬休みを指折り数えて待っていた、しっかり者だけど繊細な進。
クリスマス、大晦日、お正月、バレンタイン、ホワイトデーと
わくわくするようなイベントに沿って描かれる、父と息子の究極の片想い。
荷物はお客様へとしっかり届けられるのに、
溢れる想いはなかなかうまく届けられない大和が微笑ましくて。
雪が解けてふっくらとした春の大地が現れるように
モコモコした片想いというコートを脱いだら、温かい両想いが顔を出す。
あまりの相思相愛ぶりに、こちらまで照れくさくなってしまうような
可愛らしい父と息子の物語です。
- 感想投稿日 : 2013年8月21日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2013年8月11日
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